錯覚が起きているのは脳ではなく、目の「網膜」だと判明!

story_fun 2020/06/24
典型的な明るさの錯覚。どうみてもAのマスとBのマスは同じ明るさに見えないが、実際は同じ。問題はこの錯覚が網膜と脳のどちらで起きているか/Credit:EdwardH.Adelson(文字はナゾロジー編集部記入)
point
  • 明るさにかかわる錯覚の原理は100年以上研究されている
  • 脳が錯覚に介在している場合、ありえない錯覚のパターンが見つけ出され、脳の錯覚への介在が疑われる
  • 実験の結果、明るさの錯覚は脳でなく網膜の単純な神経回路で起きていた

上の図は明るさを用いた錯覚を引き起こす典型的なものです。

影の部分にある「B」が描かれたマスは、明るい部分にある「A」と描かれたマスはより明るくみえます。

「A」マスの右下の濃い色のマスが上下で色合いが変化しているのが錯覚のキーになっている。「A」マスの右下のマスを取り除くと、一気に同じ色にみえてくる/Credit:EdwardH.Adelson(文字はナゾロジー編集部記入)

ですが、周りのマスをはぎ取っていくと、実際は同じ明るさにあることがわかります。

脳を研究する研究者たちは、この錯覚(明るさ、輝度コントラスト)の背後にあるメカニズムを、100年以上にわたって解明しようと努めてきました。

しかし、ヒトの認識にかかわる部分は容易に解明できませんでした。

研究者たちはただ漠然と、「脳の調節機能にかかわる高度な働きが関与しているのだろう…」と、考えるしかなかったそうです。

ですが新たなMIT(マサチューセッツ工科大学)主導の研究によって、輝度コントラストの錯覚の発生地点は脳ではなく、網膜であることが証明されました。

錯覚は私たちの脳に辿り着く前の段階で、既に起きており、脳は後から認識するに過ぎないというのです。

MITの研究者たちは、認識問題の霧をどうやって切り抜けたのでしょうか?

常に影のほうのドットが明るくみえる訳ではない

影の方のドットが明るくみえる典型的な錯覚パターン。多くの錯覚はこのパターンで構成されている/Credit:Vision Research(文字はナゾロジー編集部記入)

画像をみると、まず脳は画像の各位置の明るさを特定します。

しかしながら、この特定は画像から発せられる光量に比例するとは限りません。

私たちの知覚は、特定の場所の色の濃さを、その場所を照らしている光の量とかけあわせて認識するからです。

そのため、上の図のように、影の場所にある明るいドット(右上と左下)に認識力を多く注いだ場合、明るい場所にある暗いドット(左上と右下)よりも、明るくみえる錯覚を起こします(実際には左右のドットは同じ色)。

反対に、明るい場所にある暗いドット(左上と右下)に認識力を多く注いだ場合、影の場所にある明るいドット(右上と左下)がより明るくみえてしまいます。

問題は「そのかけあわせが何処で行われているか?」になります。

錯覚の研究が盛んにおこなわれるようになった19世紀から現在に至るまで、このかけあわせは脳で行われると考えられてきました。

脳の明るさの調節を行う高度な働きが、錯覚をうみだしたと考えていたからです。

しかし、この説には不可解な点がありました。

影のほうのドットが暗くみえる珍しいパターン。このパターンの存在が研究者の「気付き」をうみだした/Credit:Vision Research(文字はナゾロジー編集部記入)

なぜなら、上の図のような「影の方のドットが暗くみえる」逆パターンが存在したからです。

「だからどうした?」

と、思われるかもしれませんがMITの研究者たちは、これは重要かつ決定的な事実だと考えました。

というのも「影の方のドットが明るくみえる」ように脳が介入をかけているなら、本来、逆は起こらないはずです。

しかし、逆がある。

すなわち、明るさの判断には脳の介在そのものが無い可能性が出てきたのです。

脳に辿り着く前に錯覚は起きていた

左右どちらかのみの情報でも、既に錯覚はおきていた。つまり脳での高度な情報統合は必要ない/Credit:Vision Research(文字はナゾロジー編集部記入)

MITの研究者たちは「明るさにかかわる錯覚に脳の介在が存在しない」との仮説を証明するために、別の実験を行いました。

私たちの知覚する世界は、2つの目からのイメージを統合することで生成されます。

しかし皮肉なことに、統合後のイメージはそれぞれの目の伝える真実と必ずしも一致せず、様々な錯覚を起こします。

研究者は特別に設計された立体メガネを使用して左右の目の視覚を分離することで、錯覚が2つの目からの情報が統合される前の「片目の段階」で起きていたことを発見しました。

つまり、明るさを認識する基本的な計算処理と付随する錯覚は、脳に至る前の網膜にある単純な神経回路でなされており、脳は「錯覚をうみだしていた」のではなく「既にうまれた錯覚をみていたに過ぎなかった」のです。

はじめて視覚を得た盲目だった子供たちも錯覚に陥る

はじめて世界をみる「クリーンな脳」をもつ子供たちも、明るさの錯覚に陥った。つまり脳の学習機能もまた錯覚には必要ない/Credit:depositphotos

研究チームの仮説を裏付けるような、他の結果も得られています。

錯覚の生成場所がどこなのかを特定するために、研究者は盲目から回復したばかりの子供に、これまでと同じような画像をみせました。

もし錯覚が脳の学習機能によって成り立っているものなら、世界をはじめてみることになった子供たちは、錯覚から逃れることができるはずだからです。

しかし結果は違いました。

生れてはじめて視力を得た「クリーンな脳を持つ」子供たちですら、明るさの錯覚の餌食になりました。

これは、明るさの判断が脳の介在なしに、網膜の単純な神経回路で独立して行われている証拠となります。

高度な脳機能だと思われていた多くの現象は単純な神経回路の働きである

高度だと思われていた脳機能の多くが単純な回路の産物である可能性が高い/Credit:depositphotos

今回の研究によって「錯覚」といった脳の高度な機能に帰着すると思われていた現象が、実は非常に単純な神経回路によって生成されていることがわかりました。

研究者チームはこのような結果は「明るさの判別」に留まらないと考えています。

すなわち、私たちが複雑で高度だと考えている脳機能の多くは、実は単純な神経回路の上に乗っている可能性があるからです。

複雑な脳機能を単純に考える…という一見、矛盾にも思えるアプローチが、一般的になる日は近づいているのかもしれません。

研究内容はアメリカ、MIT(マサチューセッツ工科大学)のPawan Sinha氏らによってまとめられ、学術雑誌「Vision Research」の8月号に掲載される予定です。

Mechanisms underlying simultaneous brightness contrast: Early and innate
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0042698920300730

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reference: MIT News / written by katsu
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