ヒトの心臓を3D印刷で作成することに成功! 細胞を材料に心臓のはたらきを再現

biology 2020/07/18

3D印刷技術によって作られた複雑な内部構造と電気的な同期を備えた最初の心臓/Credit:Circulation Research
point
  • これまで心臓を3D印刷するのは困難だった。
  • しかし最初に形だけを万能細胞で作って、後から全体を心筋細胞に分化する方法が開発された
  • 新たな技術で作られた心臓は電気的に同期しているだけでなく体液の循環も可能だった

人間の細胞とタンパク質をインクとして使った3D印刷によって、心臓が作られました。

印刷された心臓は本物と同じように4室を持つだけでなく、拍動し、液体を入口から出口に向けて流すことができました。

これは2心房・2心室をもつ心臓が3Dプリントによって作られ、正常に動作した最初の例です。

実はこれまで完璧な心臓を3Dプリントしようという試みは、ほとんどが失敗に終わっていました。

なぜなら、心筋細胞は分裂によって増えてくれない非増殖性の細胞であり、印刷後の心臓に十分な細胞密度を持たせられず、複雑な立体構造を作れないからです。

しかし今回、研究者たちの機転により新技術が開発され、十分な細胞密度を兼ね備えた心臓が誕生しました。

ちょっとした発想の転換

3D印刷される過程を高速で流してみた。容器の内部で心筋細胞が積層して心臓になっていく様子がわかる/Credit:Circulation Research

万能細胞から作られた心筋細胞を使って、心臓を3D印刷しようとする試みは、長年に渡って続けられてきました。

しかし3D印刷では単純な袋状の構造物はつくれても、本物の心臓のように複雑な構造を持ち、同時に全体が電気的に同期して鼓動させることはできなかったのです。

ミネソタ大学のクファー氏をはじめとした研究チームも失敗を繰り返しており、心臓の3D印刷は不可能なのではないかと、諦めかけていました。

心臓を構成する心筋細胞は非増殖性の細胞であるために印刷後の位置で増えてくれず、いかに改良を重ねても、十分な心筋細胞の密度を達成できなかったからです。

最初の位置決めと増殖は万能細胞であるうちに済ませて、あとからジワジワと心筋細胞に変化していく/Credit:Circulation Research

しかし、ふとあるアイディアが浮かびました。

心筋細胞で心臓を印刷できないならば、そもそも使わなければいい…。最初に心臓の形を作って後から分化させよう!」というものです。

具体的には上の図のように、3D印刷のインクに増殖性の高い万能細胞を使い、まずは心臓の機械的強度を維持するに十分な細胞数を確保します。その後、全体を心筋細胞に変化させるという方法を取りました。

万能細胞を狙ったタイミングで心筋細胞に変化させるには変化因子の微妙な匙加減と調整が必要だった/Credit:Circulation Research

しかしそのためには、インクに使う万能細胞にちょっとした工夫をする必要がありました。

それがなければ、できあがるものは心臓の形をしただけの、ただの万能細胞の塊です。

クファー氏が行った工夫とは、万能細胞を心筋細胞に変化させるのに何度も使ってきた変化因子(心臓の細胞外タンパク質)の量を調節することでした。

変化因子を絶妙な加減で加えることで、万能細胞としての増殖性をもったままの状態で印刷し、十分細胞数が増えた後、ジワジワと心筋細胞に変化する…といった、まるでタイマーがついてるかのような調節が可能になったのです。

心筋細胞は同期して液体を循環させられる

完成した心臓は液体を循環させる能力があった/Credit:Circulation Research

紆余曲折を経て印刷された心臓は、まるで本物の心臓のようでした。

全体が一定のリズムで収縮を繰り返し電気的な同期が確保されていたそうです。

また機械的な機能も持ち合わせており、上の動画のように、入口から入った液体を出口まで運び循環させることもできました。

この技法を使えば理論上、全ての臓器が印刷できる

作成された心臓は血液の入口と出口を持ち、内部には2心房2心室を備える/Credit:Circulation Research

今回の研究で作られた心臓のマウスの心臓と同じくらい大きさ(1.5cm)に設計されていました。

研究者は今後、この印刷された心臓をマウスの血管系と繋ぐことで、生体内でも心臓として働くかを確かめる予定です。

そして最終的には、3D印刷技術により作成された人工臓器(オルガノイド)を、臓器移植のスタンダードにするとのこと。

もし今回の成果がヒトの細胞を材料にした、脳の3D印刷へと応用できる場合、既存の脳オルガノイドよりも高密度の神経細胞を持った、より大きなヒトの脳を印刷可能になります。

さらに細胞の分化過程を制御できれば、小脳から大脳皮質まで供えたより完璧な脳となります。

また3D印刷によって自在に組み立て可能な心筋細胞は、工学の分野でも様々な応用が可能でしょう。

今回は心臓の形が作られましたが、将来的にはバネのような金属部品の代替にもなるかもしれません。

研究内容はアメリカ、ミネソタ大学のMolly E. Kupfer氏らによってまとめられ、5月31日に学術雑誌「Circulation Research」に掲載されました。

In Situ Expansion, Differentiation, and Electromechanical Coupling of Human Cardiac Muscle in a 3D Bioprinted, Chambered Organoid
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCRESAHA.119.316155

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reference: sciencedaily / written by katsu
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