セミに寄生し、性行為でパートナーを次々にゾンビ化させる菌が怖い。

animals_plants 2020/07/29
性病の感染力にゾンビ化による行動支配が加わって最強にみえる/Credit:PLOS PATHOGENS
point
  • セミをゾンビ化するゾンビ菌が存在する
  • ゾンビ菌に感染したセミは雄雌かまわず性行為をしようとする
  • 凶悪そうなゾンビ菌だが実は進化のどん詰まりにいる儚い存在だった

セミをゾンビにさせる恐ろしいゾンビ化菌(マッソスポラ)が存在します。

マッソスポラによってゾンビ化したセミは腹部がないまま飛び回って胞子を撒き散らし、同性異性構わず相手を誘って交尾しようとすることがの研究で知られていました。

セミに寄生して、オスメス関係なく交尾させる菌がいる – ナゾロジー

これだけでもかなりグロくて恐ろしいのですが、最新の研究によって、マッソスポラは感染したセミの心と体を菌がどうのように支配していくのかが判明しました。

マッソスポラに感染したオスのセミは、オスでありながらメスの求愛行動である「羽ばたき」を行い、別のオスを誘惑し、性行為を行おうとしていたのです。

ゾンビ化したセミは生殖器を中心とした腹部が脱落して、マッソスポラの胞子嚢に変化しているため既に子孫は残せませんが、性行為の真似事を通して、相手を感染させることができます。

性行為した相手をゾンビ化させ、さらなる感染を引き起こす…。

性病とゾンビ化を併せ持ったような寄生菌マッソスポラは、セミにとって最悪の病原体とも言えるでしょう。

ゾンビ化は感染拡大に非常に有効な手段

宿主をゾンビ化させる戦略は非常に有効/Credit:PLOS PATHOGENS

宿主をまるでゾンビのように変化させる感染症は、いくつか知られています。

まず有名なのは狂犬病ウイルスです。

狂犬病に感染した犬は理性を失い、とにかく何でも物に噛みつこうとします。

狂犬病ウイルスは感染した動物の口腔内に特に多く存在しており、噛みつくことで他の動物に感染を広めるのです。

またトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)は感染したげっ歯類の恐怖をなくし、ネコを探し出してわざと食べられるように行動させることが知られています。

このように病原体が宿主をゾンビ状態にするメリットは大きく、宿主の行動支配を通して未感染の別個体や別種へと感染を広げることが可能になります。

上の図は、マッソスポラがセミをゾンビ化し、交尾を通して感染を広げていく様子を示しています。

マッソスポラの感染が起こると考えられているのは、まず第一に、セミが地中にいる間だと考えられています。

ですが感染直後はマッソスポラの活動は極めて低調です。

しかし感染したセミが成虫になって一週間が過ぎた頃に、セミの腹部で爆発的に増加し、生殖器を中心とした腹部を喰いつくし、胞子嚢を形成します。

ですがこの段階ではセミは死にません。

Credit:nature inquiries

それどころかこの段階からマッソスポラによる支配がはじまり、オスに感染した場合はオスにメスの求愛行動を行わせ、他のオスを騙して性行為に及び、胞子に汚染された腹部を押し付け、感染させようとします(メスに感染した場合も同じ)。

ちなみにセミの交尾は、上の図のように腹部を先端を押し付け合うことで成立します。

Credit:Angie Macias

感染したセミの腹部は上の図のように失われ、腹部の先端にあったはずの男性器や女性器といった生殖器は既に脱落してしまっています。

存在しない生殖器で同性異性かまわず交尾をしようとする状態のセミは、もはや生き物というよりゾンビと評したほうがいいでしょう。

さらに興味深い点としては、感染が進んでセミが死にかけになると、胞子生産が止まる点があげられます。

これは他の感染性の菌類とマッソスポラの大きな違いです。

他の菌類は死んだセミの体を栄養源にして大量の胞子の生産を始める一方で、マッソスポラにとって他者に感染させられなくなった「死んだセミ」や「死にかけのセミ」は、もう用無しになるのです。

事実、感染が進行してセミが死にかけ状態になると、マッソスポラはもうセミに相手を誘い込む羽ばたき行動をさせなくなります。

そしてセミが死ぬと、マッソスポラはセミの体から抜け出して地面に沁み込み、地中に眠る他のセミの幼虫への感染を試みます。

マッソスポラが捨てた後のセミの死骸は、腹部がゴッソリと抜け落ちており、非常に無残な形をしています。

ゾンビ化した宿主も不要になれば切り捨てるマッソスポラは、映画やマンガに出てくるゾンビ化ウイルスよりもタチが悪いとも言えます。

マッソスポラは幻覚剤と覚せい剤を生産する

Credit:wikipedia1.wikipedia2

マッソスポラがどのようにしてオスのセミにメスの求愛行動をさせるかはまだわかっていません。

なぜならば、マッソスポラはセミの胎内で生きることに特化しすぎているために、通常の培地では育てることができないからです。

またライフサイクルも13年~17年と極めて長く、通常の任期付き博士研究員が取り組むことはできません(一回でも実験に失敗すると次のチャンスは17年後)。

しかし近年になって、マッソスポラが幻覚物質であるシロシビン(マジックマッシュルームの主成分)と、覚醒剤の一種であるカチノンを生産していること判明しています。

こそのため、マッソスポラの行動支配に、これら精神作用のある物質が関与している可能性も浮上してきました。

ゾンビ化の代償は進化のドン詰まり

宿主をゾンビ化させる感染手法はなぜ主流派にならなかったのか?/Credit:sciencedirect

宿主の行動を支配して別個体の宿主を次々に感染させるゾンビ化は、菌にとって有効な戦術であると考えられるでしょう。

しかし意外なことに、ゾンビ化は感染の主流ではなく、非常に限られた菌やウイルスのみでみられます。

その主な原因としてあげられるのが、ゾンビ化が極端な進化の結果であるという事実です。

事実、先に述べたように、マッソスポラはセミの体内で生きることに特化しすぎたせいで、他の菌ならば容易に適合できる人工的な培地での生存能力を失ってしまいました。

またゾンビ化を主な繁殖戦略として選んだ場合、ゾンビ化以外の繁殖方法が制限されると共に、宿主にあわせて常に高度な宿主特異性を維持する必要性が生じ、別種の宿主に感染可能になるような進化的余裕が失われます。

進化において余裕がないということは、セミ以外の種への感染能力を獲得する余裕がないことを意味します。

つまりは、進化のドン詰まり状態なのです。

そして、そのような行き過ぎた進化は絶滅や環境変化のイベントに対して極めて脆弱となるでしょう。

ゾンビ型感染を引き起こす真菌は強いと思われがちですが、実は適応能力と進化の可能性を失った、非常に儚い存在だったのです。

研究内容はアメリカ、ウェストバージニア大学のブライアン・ロベッド氏らによってまとめられ、6月18日に学術雑誌「PLOS PATHOGENS」に掲載されました。

Behavioral betrayal: How select fungal parasites enlist living insects to do their bidding
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1008598

「キマった」セミ? 「寄生菌」に寄生されたゾンビセミから「覚せい剤」等の化合物を検出 キノコ以外で初

reference: sciencedaily / written by katsu
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