土星の衛星タイタンから、生命誕生のカギになるかもしれない「非常に奇妙で珍しい分子」が発見される

これまで星間空間でしか発見されていなかった「シクロプロペニリデン」がタイタンの大気中から発見された。
これまで星間空間でしか発見されていなかった「シクロプロペニリデン」がタイタンの大気中から発見された。 / Credits: Conor Nixon/NASA’s Goddard Space Flight Center

reference: NASA

NASAの科学者が、土星の衛星「タイタン」の大気中から非常に珍しい分子を発見したと、10月15日付で科学誌『Astronomical Journal』に掲載された論文報告しました。

それは「シクロプロペニリデン」と呼ばれる炭素と水素の化合物で、反応性が高いため地球では実験室の限定された条件下でしか存在できないものです。

これが大気圏中から発見されたのは初めてのことで、多くの科学者たちを驚かせています。

非常に珍しい奇妙な分子「シクロプロペニリデン」

シクロプロペニリデンの分子構造。
シクロプロペニリデンの分子構造。 / Credit:en.Wikipedia

今回発見された分子は、化学を勉強した人でもあまり聞いたことがないと言われるほど、珍しい存在です。

シクロプロペニリデン(IUPAC名cyclopropenylidene)」はC3H2と表される単純な炭素と水素の化合物。これは簡単に他の物質と反応して新しい化合物を作り出してしまうため、通常の大気中などにはほぼ存在していません

NASAのホームページ上でも、この分子は高校の化学の教科書はおろか、大学の学部生でも学ぶことは稀であり、化学者であっても聞いたことがない人がほとんどで、なんと発音するかも知らないでしょう、と説明されています。

今回の研究チームの1人、NASAゴダード宇宙飛行センターの科学者コナー・ニクソン氏はALMA望遠鏡の観測で、タイタン大気上層のスペクトル分析を行っている中、この非常に稀な分子の存在に気づきました

この発見に彼は思わず「これは予想外な…」とつぶやいてしまったようです。

通常は宇宙空間にしか存在しない分子

これまで星間空間でしか発見されていなかった「シクロプロペニリデン」がタイタンの大気中から発見された。
これまで星間空間でしか発見されていなかった「シクロプロペニリデン」がタイタンの大気中から発見された。 / Credit: Conor Nixon/NASA’s Goddard Space Flight Center

シクロプロペニリデンはとにかく反応性が高く、これまで発見されたのは星間領域にある分子雲の中くらいでした。

星間領域にある分子は非常に冷たいため化学反応を起こしにくい状態です。さらに星間ガスが拡散して存在しているため、なおさら反応は起きにくくなります。

そのような環境でなければ単体で存在できない分子なのです。

しかし、今回の発見はタイタンの大気中でした。タイタンは地球よりも大気が濃密な世界で、その地表大気圧は地球の1.5倍、大気密度は4倍です。さらに雲、雨、湖、川、さらに塩水の海も持っています。

そんな化学反応の巣窟のような場所で、シクロプロペニリデンが見つかるというのはまさに予想外のことだったのです。

タイタンが太陽系の中でもかなりユニークな天体であり、新しい分子の宝庫であることは証明されています。しかし、なぜタイタンの大気にシクロプロペニリデンが存在できるのか、また他の惑星では見つからないのかは現在のところ不明です。

生命誕生直前の地球環境を再現しているタイタン

タイタンの地形やメタンの湖を移した地図。
タイタンの地形やメタンの湖を移した地図。 / Credit:NASA/JPL-Caltech/University of Nantes/University of Arizona

タイタンは、土星の持つ62個の衛星の中で最大であり、太陽系に存在する200以上の衛星の中でもっとも地球によく似た場所だと言われています。

研究者たちはタイタンの居住可能性に興味を向けているとのこと。

その理由が、タイタンの大気組成にあります。タイタンの大気は地球と同じようにほとんどが窒素であり、そこに僅かなメタンが含まれています。

生命誕生直前の38億年前から25億年前の地球は、酸素の代わりにメタンが大気を満たしていました。これは現在のタイタンの環境にそっくりな可能性があります。

科学者たちはタイタンが古代の地球を再現した実験場と捉えていて、原初の地球で生命誕生に関与した重要な化学反応をそこで見ることができると期待しているのです。

シクロプロペニリデンは炭素ベースの環状分子です。シクロプロペニリデン自体が生命の構造に関与しているという知識は現在のところありませんが、炭素ベースの環状分子はDNAの核酸やRNAなど、生命を構成する要素として重要な役割を担っています

これまで閉じた環状炭化水素分子といえば「ベンゼン(分子式: C6H6 )」でした。これはどこの惑星大気でも発見されていて、大気中で発見できる環状炭化水素分子の最小単位だと考えられていました。

しかしシクロプロペニリデンはベンゼンの半分の炭素原子で構成可能です。

分子は小さく単純なほど、反応を速く起こすと予想されています。そして小さな分子が関与する反応は、より多様な化合物を生み出す可能性が高くなると期待されているのです。

シクロプロペニリデンの大気中での発見は、生命誕生に深く関与している可能性があり、しかもそれが原始地球にそっくりなタイタンで発見されたことは非常に興味深いことなのです。

タイタンを調査予定の探査機「ドラゴンフライ」

ドラゴンフライミッションの想像図。
ドラゴンフライミッションの想像図。 / Credit:NASA

こうした興味深い要素の多いタイタンを詳細に調査するため、NASAは「ドラゴンフライ・ミッション」を計画しています。

このミッションでは8基の回転翼を持った大型ドローンを使って、タイタンの地表を移動しながらさまざまな探査を行う予定です。

シクロプロペニリデンは小さく奇妙な分子ですが、この非常に珍しい分子が生命を作り出す化学反応の重要なパズルのピースになっている可能性があります。

科学者たちは現在、この珍しい分子がどのように大気中の他の分子と相互作用し、反応を起こしていくかを解明しようとしています。

不毛の惑星にどうやって生命が誕生するのか? 人類最大級の謎を解明するパズルのピースが、今揃いつつあるのかもしれません。

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