捕食するつもりが返り討ちに?
グリズリーの遺体は、今月4日、ヨーホー国立公園を訪れていたハイカーにより、ハイキングルートを少し外れた場所で発見されました。
パークレンジャーは、遺体が腐肉を漁る捕食者を呼び寄せて、他のハイカーを危険にさらすことのないようすぐに回収し、オタワにあるカナダ国立公園管理局の本部に空輸しています。
遺体は、ハイイログマ(学名:Ursus arctos horribilis)のメスで、まだ完全に成熟していない若い個体でした。(グリズリーという呼び名は、本種の英語名)
体も大人に比べると、はるかに小さかったとのことです。
遺体を調べたところ、首や脇の下に何かで刺された傷跡が確認されましたが、原因までは特定できませんでした。
そこで遺体解剖を行った結果、グリズリーを刺し殺した犯人は、山に住むシロイワヤギ(学名:Oreamnos americanus)と判明したのです。
シロイワヤギは、アメリカ・カナダの北米地域に分布する動物で、体長は140〜190センチ。
全身は真っ白な体毛に覆われ、オスメスともに2本の鋭い角を持っています。
解剖を担当した野生生物学者のデビッド・ラスキン氏は、取材に対し「刺し傷の大きさや形状を調べた結果、シロイワヤギの角と一致することが確認されました」と話します。
グリズリーとシロイワヤギは、生息域が重なっている場所もあり、両者の遭遇はこれまでにも度々報告されています。
大抵は、体格に勝るグリズリーがヤギを襲って捕食するのですが、シロイワヤギは高いクライミング力を持っているため、グリズリーが降りられない断崖絶壁に避難することもあります。
こちらは2018年に撮影された映像で、シロイワヤギの親子がグリズリーから避難する様子を捉えたものです。
今回の刺殺事件について、ラスキン氏は、次のように推測します。
「最初はグリズリー側がシロイワヤギを襲ったと考えられますが、逆にシロイワヤギの反撃に遭い、最終的に鋭い角で首と脇下を刺されたのでしょう。
グリズリーは攻撃する際、獲物の頭や首の後ろ、肩を狙う傾向があり、上から覆いかぶさるような形を取ります。
その中で、後ろに反り返ったヤギの角がグリズリーに突き刺さった可能性が非常に高いです」
これはきわめて稀なケースであり、グリズリーに襲われて、生き延びられるヤギは圧倒的少数です。
しかし、前代未聞というわけでもなく、シロイワヤギが防御的にクマを刺し殺したケースはいくつか記録があるようです。
また、今回に関して言えば、グリズリーが成熟しておらず、比較的小柄だったことも、シロイワヤギの有利に働いたのでしょう。
ラスキン氏によると、グリズリーの成体は最大で500キロに達しますが、今回のグリズリーは100キロにも満たなかったという。
狩りの未熟さも、獲物を見誤る一因となったのかもしれません。