物理学を揺るがしたもう一つの問題 「原子の中身」
19世紀の終わりから20世紀の初め、光量子の問題と共に、もう1つ物理学界を揺さぶっていた問題があります。
それが原子の中はどうなっているのか? という問題です。
これは、レントゲンのX線発見の報告を発端に物理学の重要なテーマになっていきます。
この分野で目覚ましい活躍をした物理学者の一人が、アーネスト・ラザフォードです。
![「あらゆる科学は、物理学か切手集めのどちらかだ」アーネスト・ラザフォードの肖像](https://nazology.net/wp-content/uploads/2020/03/9990ca4ec87c14fc76dd2c7b7c48fa10-900x558.png)
ラザフォードは、アルファ線、ベータ線(当時はウラン線と呼んでいた)の発見をはじめ、助手のガイガーと共に放射性崩壊による元素変換を発見してノーベル化学賞を受賞するなど、目覚ましい成果をあげます。
彼の功績はまだ原子の存在自体を疑問視する物理学者が多かった時代に、原子の実存性を決定付けるものでした。
そんなラザフォードとガイガーの最初の大きな功績は、アルファ粒子の正体がなんであるかを研究しているときに発見されました。
ガイガーは金箔にぶつけたアルファ粒子がたまにあり得ない方向へ散乱することに気づくのです。
さらに研究をすすめると、あろうことか跳ね返ってくる粒子があることも発見されます。
![ガイガーは金箔で高エネルギーのα粒子が弾かれるのを確認する](https://nazology.net/wp-content/uploads/2021/10/cdea91f2c66939d3638df1244b8083e9-900x521.jpg)
なぜ高いエネルギーを持つアルファ粒子が、薄っぺらい金箔で跳ね返るのか? これは紙の壁に大砲を打ち込んだら、そのままこちらへ跳ね返されたというくらい衝撃的な現象でした。
ラザフォードはこの原因が原子の構造にあると考えました。
そして、原子の中身が正電荷の大きな核を中心に電子が惑星のように軌道を描いて回っているという原子核モデルを思いつくのです。
アルファ粒子は正電荷の粒子です。アルファ粒子が極稀に跳ね返るのは正電荷の原子核にぶつかったためで、たまに散乱を起こすのは、原子核の周りに浮かぶ電子の極近距離を通って影響を受けたためと考えたのです。
![金箔にぶつけたα粒子の振る舞いからラザフォードが考えた原子の構造。](https://nazology.net/wp-content/uploads/2021/12/1d54f096b43bc15ed507310a92709d01-900x521.jpg)
このときラザフォードの考えた原子核モデルは厳密には正しくないのですが、現代の私達が原子を思い浮かべるイメージの原型になりました。
このモデルは、正確では無いにも関わらず、カッコいいので今でもアメリカ原子力委員会の記章になっています。
![画像](https://nazology.net/wp-content/uploads/2020/03/2c665ebc534cbc7ff055ed110a925ed0.png)
しかし、このモデルは発表当時は真面目に受け取られませんでした。
なぜなら古典物理学の理論では、このモデルは成立しないからです。
荷電粒子が高速で運動した場合、そこからは電磁波が放射され、電子はたちまちエネルギーを失います。これはマクスウェルの電磁気学から明らかにされている事実です。
そうなると電子は軌道を描いて惑星のように回り続けることはできず、たちまち原子核に墜落してしまうのです。
ラザフォードは実験結果からこれがかなり正しい原子の姿だと考えていましたが、本人を含めて当時は誰もそんな原子モデルが現実に成立するとは信じることができませんでした。
こうした中、ラザフォードの研究室に新たなメンバーとして加わったのが、量子力学の最重要人物ニールス・ボーアです。