陸上の鳴き声とは、発声法が違っていた
イボガエルの正式名称は「ツチガエル(学名:Glandirana rugosa)」と言い、北海道西部から本州、四国、九州など、日本の広い範囲に分布します。
鹿野氏は今年6月17日、午後8時30分前後、山形県の最上川水系の支流で魚類の水中調査を行っていたところ、水中からツチガエルの鳴き声がするのに気づきました。
場所は水面幅8メートル、水深50センチほどの流れの緩い環境です。
そこで氏は、防水デジタルカメラを用いて、水中の様子を撮影することにしました。
すると、ツチガエルが水中で発生する様子が確認されたのです。
それがこちら。
しかし、その鳴き声は、陸上での発声とは少し違っていました。
陸上では普通、鳴嚢(めいのう)と呼ばれるアゴ下の袋を膨らませながら、「グゥーグゥー」と比較的長いテンポで発声します。
ところが、水中では鳴嚢を膨らませることなく、「グッグッグッ」と短いテンポとスピード感で鳴いていました。
腹部の動きだけを使っており、周波数も低く、音程も陸上より低音になっています。
比較のために、こちらが陸上での鳴き声です。
その一方で、なぜツチガエルが水中でも鳴くのかはわかっていません。
鹿野氏は、仮説として、水中で鳴くことで鳥類などの陸上の捕食者から回避できる可能性や、メスにより好かれやすいという性選択が働いていることを挙げています。
また、ヌマガエルやトノサマガエルといった、主に陸上で発声する他種も水中で鳴く可能性があり、さらなる調査が必要です。
鹿野氏は、今回の発見を受け、次のように述べています。
「ツチガエルは『イボガエル』と呼ばれ、忌み嫌われることもありますが、今回、水中発声という興味深い生態を持っていることがわかりました。
これを機に、少しでもカエル類への興味や愛着を持っていただければ嬉しく思います。
また、野生生物の不思議とその発見は意外と身近にあります。たとえ研究者でなくとも注意深く自然を観察すれば、誰でも新しい発見ができます」