すぐ側にあったのに、177年間「新種」と気づかず
オオオニバス属は、ヴィクトリア朝(1837〜1901)に本格的な種分類や命名が進められましたが、現在にいたるまで、「オオオニバス(V. amazonica)」と「パラグアイオニバス(V. cruziana)」の2種しか知られていません。
野生では、いずれも南米のアマゾン川流域に自生しています。
しかし、キュー王立植物園の植物学者であるカルロス・マグダレナ(Carlos Magdalena)氏は長年、「第3種目が存在するのではないか」と考えており、独自に調査を進めていました。
2016年には、オオオニバス属を栽培しているボリビアの植物園から、未記載種の可能があるオオオニバスの種子を寄贈してもらい、キュー王立植物園にて生育を開始。
他の既存の2種と並べて成長する姿を観察したところ、特徴がどちらとも違うことに気づきました。
そこで、このオオオニバスをDNA分析した結果、他の2種とは異なる未記載種であることが判明したのです。
![新種の「V. ボリビアーナ」の葉の直径を測定するマグダレナ氏(左)](https://nazology.net/wp-content/uploads/2022/07/ISD_01072021_4451_Giant-Waterlily-Photoshoot-min-900x600.jpeg)
マグダレナ氏と研究チームは、協力してくれたボリビアの専門家に感謝の意を表し、新種の学名を「ヴィクトリア・ボリビアーナ(Victoria boliviana)」と命名しました。
また、DNAデータによると、新種はパラグアイオニバス(V. cruziana)と遺伝的に近く、両者は約100万年前に分岐したことが示唆されています。
今回、新種と判明したV. ボリビアーナは、ボリビアのアマゾン地域「リャノス・デ・モホス (LLanos de Moxos)」という水生生態系に自生することがわかっています。
![ボリビアに自生するV. ボリビアーナ(まさか新種とは思っていなかった)](https://nazology.net/wp-content/uploads/2022/07/Victoria-boliviana-in-the-wild-in-Bolivia.-Credit-Carlos-Magdalena-RBG-Kew.-5-min-900x600.jpg)
最大記録は、ボリビアのラ・リンコナダ庭園で生育されている葉の直径3.2メートルのもので、これはオオオニバス属の中でも最大です。
さらにこの新種、実は今回はじめて見つかったわけではなく、キュー王立植物園で約177年間、ボリビア国立植物標本室に34年間、乾燥標本が保管されていたことが判明しました。
しかし専門家らは、現在にいたるまで、既知の2種のどちらかだろうと考え、新種とは思ってもいなかったのです。
![177年前からすでに乾燥標本は保管されていた!](https://nazology.net/wp-content/uploads/2022/07/93b5d07fa782d913a390dab130a8352a-900x506.jpg)
マグダレナ氏は、今回の発見について、「20年近いキャリアの中で最大の成果だ」と話します。
「私は2006年に、この種のオオオニバスの写真をネットで見たときから、新種ではないかと疑っていました。
私たち園芸家は植物を熟知しているので、一目見ただけでも、何かが違うことはすぐにわかるのです」
しかし、オオオニバス属は、研究データが不足していることや、野生での採集が難しいことから、新種の特定までにかなりの時間を要しました。
それでも、本研究の成果について、研究チームは喜びをあらわにしています。
![3種の比較、A:オオオニバス、B:V. ボリビアーナ(新種)、C:パラグアイオニバス](https://nazology.net/wp-content/uploads/2022/07/fpls-13-883151-g001-393x600.jpeg)
チームの一員で、キュー王立植物園のアレックス・モンロー(Alex Monro)氏は「オオオニバス属の新種を同定できたことは、植物学において非常に貴重な成果だ」と指摘。
「オオオニバス属を保護するためには、その種の多様性を適切に理解し、記録することがきわめて重要なのです」と続けました。
ちなみに、新種を含む3種のオオオニバス属の生育個体がそろって見られるのは、キュー王立植物園のみとのことです。