近くにオスがいながら「処女懐胎」したトラフザメを確認!
近くにオスがいながら「処女懐胎」したトラフザメを確認! / Credit: Shedd Aquarium – New Study from Shedd Aquarium and Field Museum Documents “Virgin Birth” in Endangered Zebra Shark(2022)
animals plants
Study investigates ‘virgin birth’ in aquarium sharks, even when potential mates are nearby https://phys.org/news/2022-12-virgin-birth-aquarium-sharks-potential.html New Study from Shedd Aquarium and Field Museum Documents “Virgin Birth” in Endangered Zebra Shark https://www.sheddaquarium.org/about-shedd/press-releases/zebra-shark-parthenogenesis-study
Parthenogenesis in an elasmobranch in the presence of conspecific males https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jfb.15268

2022.12.19 Monday

近くにオスがいながら「処女懐胎」したトラフザメを確認!

生物の多くはオスとメスが交配する「有性生殖」で繁殖しますが、稀にメスだけで子孫を残す「単為生殖」をする種がいます。

メス親がオスなしで”処女懐胎”するので、生まれてくる子どもは遺伝的にメスのクローンとなります。

一方で、通常は有性生殖をする動物が異性を必要とせず単体で子どもを作る単為生殖をするときは、まわりに交尾相手がいないときの最終手段だと考えられてきました。

無性生殖では子孫の遺伝的多様性が乏しく、病気などに対して脆弱になるからです。

しかし最近、米シカゴにあるシェッド水族館(Shedd Aquarium)にて、メスの「トラフザメ(学名:Stegostoma fasciatum)」が、同じ水槽内に健康で繁殖力のあるオスがいるにもかかわらず単為生殖をしていたことが明らかになりました。

サメの単為生殖は過去に例がありますが、いずれも近くにオスがいない条件に限られています。

研究の詳細は、2022年12月12日付で科学雑誌『Journal of Fish Biology』に掲載されました。

ナゾロジーチャンネル動画公開中

「卵が先か鶏が先か」よく聞く疑問に生物学者がマジレス

元気なオスがいるのに、なぜメスだけで繁殖⁈

シカゴ・フィールド自然史博物館(Field Museum of Natural History)の生物学者で、本研究主任のケビン・フェルドハイム(Kevin Feldheim)氏はサメで単為生殖が起こることは数年前から知られていました」と話します。

たとえば、オーストラリアの水族館では2016年に、同じトラフザメのメスが単為生殖で3匹の子どもを孵化させたことが報告されています。

このメスは何年間もオスと隔離された状態で飼育されていました。

確かに驚くべきことではありますが、身近にオスがいないのなら自力で繁殖するより他に仕方ありません。

生物の最終目的が”子孫繁栄”であることを踏まえると、理解はできるでしょう。

しかし、今回報告されたケースはそれと事情が違います。

すぐ側に元気なオスがいたにもかかわらず、メスだけで子どもを残したのです。

シェッド水族館の成熟したトラフザメ
シェッド水族館の成熟したトラフザメ / Credit: Shedd Aquarium / Brenna Hernandez(phys, 2022)

トラフザメは絶滅危惧種に指定されているため、研究者も注意深くその生態を調査し、保護活動を進めてきました。

シェッド水族館では、床から天井まである巨大な水槽スペースで、トラフザメを含む様々なサメを飼育しているという。

同館のリーズ・ワトソン(Lise Watson)氏は「2004年にトラフザメの繁殖が成功し始めたので、どのサメが子どもの親であるかを確認するための遺伝子検査を開始しました」と話します。

2008年、ワトソン氏らは水槽内にトラフザメの卵の塊があるのに気づき、安全に孵化させるため別の小さな水槽に移動させました。

そして、新たに誕生した子ザメのDNAを解析したところ、予想外の結果が判明します。

なんと、子ザメは元の水槽内にいたどのオスのDNAも受け継いでおらず、ただ卵を産んだメスとだけ合致したのです。

シェッド水族館で誕生したトラフザメの子ども
シェッド水族館で誕生したトラフザメの子ども / Credit: Shedd Aquarium / Brenna Hernandez(phys, 2022)

「有性生殖による繁殖を推し進めてきた私たちにとって、子ザメが単為生殖で誕生したことは実に驚くべきことでした」とワトソン氏は話します。

これは絶滅危惧種のトラフザメにおいては、懸念すべき問題となるでしょう。

というのも、オスなしの単為生殖で生まれた子どもは、遺伝的多様性に乏しく、寿命が短くなったり、基本的な健康レベルが低かったり、病気にかかりやすくなるからです。

現に、シェッド水族館で生まれた子ザメはその後、数カ月間しか生きられなかったといいます。

シェッド水族館のトラフザメ
シェッド水族館のトラフザメ / Credit: Shedd Aquarium / Brenna Hernandez(phys, 2022)

フェルドハイム氏は「健康な交尾相手がいるにもかかわらず、サメが単為生殖をした例は、私たちの知る限りではおそらく過去に1例しかない」と述べています。

よって、元気なオスがいながらメスが単為生殖をした理由は、まだ検討がつきません。

水槽内の飼育環境がそうさせたのか、あるいは野生でも起こっていることなのか。

これは絶滅危惧のトラフザメを保護する上で、無視できない問題です。

今回の発見は、単為生殖が生じる背景について理解を深め、トラフザメの保護と繁殖を今以上に推進するための重要な出発点となるでしょう。

みなさんのおかげでナゾロジーの記事が「Googleニュース」で読めるようになりました!
Google ニュースを使えば、ナゾロジーの記事はもちろん国内外のニュースをまとめて見られて便利です。
ボタンからダウンロード後は、ぜひフォローよろしくおねがいします。
App Store からダウンロード Google Play で手に入れよう

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

動物のニュースanimals plants news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!