なぜひとは誤情報を信じ続けるのか?「フェイクニュースは事実検証では止められない」
なぜひとは誤情報を信じ続けるのか?「フェイクニュースは事実検証では止められない」 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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なぜひとは誤情報を信じ続けるのか?「フェイクニュースは事実検証では止められない」

2023.05.12 Friday

人はが追求したいのは真実ではないようです。

名古屋工業大学などで行われた研究によって、43%にあたる人々は、信じているフェイクニュースの嘘を暴く検証記事が目の前にあっても「クリックすることをあえて回避」してしまう性質があることが示されました。

これまで多くの検証記事があってもフェイクニュースの拡散を止められなかった背景には、自分の信念と反する情報を避けようとする、人間の心理的要因が潜んでいたようです。

また今回の研究では検証記事を避けているのが「どんな人々なのか?」という根本的な問いにも挑んでおり、今後のフェイクニュース拡散防止に向けた新たな提言もなされました。

今回はまず最初にフェイクニュースが流される目的を解説し、後半の項ではフェイクニュースの根絶が難しい原因と研究結果について紹介したいと思います。

研究内容の詳細は2023年4月19日に『Proceedings of the 2023 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’23)』にて公表されました。

なぜひとは誤情報を信じ続けるのか? 訂正情報の効果を制限するオンライン行動の特徴を解明 https://www.nitech.ac.jp/news/press/2023/10402.html
Who Does Not Benefit from Fact-checking Websites?: A Psychological Characteristic Predicts the Selective Avoidance of Clicking Uncongenial Facts https://dl.acm.org/doi/10.1145/3544548.3580826

フェイクニュースは何が目的なのか?

フェイクニュースは何が目的なのか?
フェイクニュースは何が目的なのか? / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

新型コロナウイルスの流行を契機に、日本でもフェイクニュースが大きな問題として取り扱われるようになってきました。

フェイクニュースは日本語では偽情報と訳すことが可能であり、偽情報の発信者は意図的に相手を騙し間違った情報を信じさせることを目的としています。

フェイクニュースが流される場面はさまざまであり、たとえば戦場では敵軍に偽情報を掴ませることで、自軍に有利に戦局を進めることが可能になります。

一方、平和な暮らしの中で流されるフェイクニュースは主にSNSや動画サイトを通じて経済的利益を得るためだったり、対立する候補の追い落としなど政治的利益を得るため、あるいは自らの宗教的信念を他者に強要しようとする手段として用いられます。

たとえば注射や輸血、手術など病院で行われる治療を宗教的に悪と考えている個人や団体がいた場合、その治療の安全性に関するフェイクニュースを流すことで、治療行為の拡大を妨害して、他人に自分の宗教理念に従った行動とらせることがあります。

そしてフェイクニュースの発信者は、自分の信念を他人に強要させたことで達成感や正義感を満足させます。

またフェイクニュースの拡散で注目を引くことができれば、自身が運営するブログで商品やメールマガジンを販売したり、動画サイトなどを通じて収益を得ることが可能になります。

単に注目されていい気分になりたいだけでなく経済的、政治的利益さらには宗教的理念の押し付けのためにフェイクニュースは送信されています
単に注目されていい気分になりたいだけでなく経済的、政治的利益さらには宗教的理念の押し付けのためにフェイクニュースは送信されています / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

またこれまで行われた複数の心理学研究により、常識とは異なる見解を強く主張する人物に対して人間は「しっかりとした考えを持つ人」という印象を受けてしまうことが知られています。

そのためフェイクニュースの発信源となることで、自分を崇める視聴者を形成し、自己満足に浸るといったケースもみられます。

このようにフェイクニュースの本質は「他者に偽情報を掴ませることで自らが利益や満足感を得る」という極めて収奪的なものとなっており、偽情報を信じた人々の多くは直接的な不利益を被ることになります。

そこで現在、世界中でフェイクニュースの嘘を暴くための検証記事を掲載する「ファクトチェックサイト(事実検証サイト)」が多く作られました。

また新型コロナウイルスのワクチン接種など人命がかかった問題では国家レベルで積極的な情報発信が行われ、正しい情報の共有が目指されました。

しかし現状はフェイクニュースの根絶とはほど遠い状態にあり、多くの人々がフェイクニュースを信じ続けています。

そこで今回、名古屋工業大らの研究チームは、誤情報を訂正する試みが社会で上手くいかない原因について調査を行ったのです。

ファクトチェックが上手く機能しない背景には、いったい何が潜んでいたのでしょうか?

次ページファクトチェックが上手く機能しない背景に潜む「確証バイアス」

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