今回お話を聞いた研究者、古藤日子さん(左)冷蔵庫で眠らせた状態のオオクロアリに、1.8mm角の二次元バーコードを1枚1枚貼っていく(右)
今回お話を聞いた研究者、古藤日子さん(左)冷蔵庫で眠らせた状態のオオクロアリに、1.8mm角の二次元バーコードを1枚1枚貼っていく(右) / Credit:産業技術総合研究所
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【ナゾロジー×産総研 未解明のナゾに挑む研究者たち】「一人ぼっちになったアリはどうなる?アリの社会性研究」 (5/7)

2023.09.07 Thursday

2023.09.06 Wednesday

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人間社会とアリの社会で似ているところはコロナ時の対応?

――こうやって聞いているとアリの社会と人間社会の類似性って気になってしまいますが、例えば私たちは気づいていないけれど、アリの研究者から見ると人間社会で起こっているこの問題ってアリの社会と同じだなあって感じることはあるんですか?

古藤:そうですね、これは私自身の研究ではないんですが、社会性昆虫の研究で有名なものに社会性免疫というものがあるんですね。集団が密接して暮らすということは感染症リスクがものすごく高いんです。これは私たちがここ数年で経験したコロナウイルスと全く同じことで、社会的距離が感染症の伝搬リスクを高めてしまいます。

アリの場合はカビなどの感染が多いんですが、感染症を巣に持ち帰ってしまうと女王から幼まで広がって一家全滅の危機に陥ってしまいます。なので、彼らは病気になって苦しい、しんどいとなると巣に帰らないようになるという報告があります。

――ええ? そういうのはちゃんと分かるんですか?

古藤:彼らは検査ができるわけではないですから、陽性とか陰性と判断できないですよね。なので具合が悪くなると巣を守るために帰らないという選択をすることが知られています。一方で感染してても割りと元気な状態だと、逆に巣に戻って周りの仲間と積極的に接触することも観察されています。

――逆に接触するんですか? それはどういう意味が?

古藤:そうすることで周りの仲間も微弱な感染を起こしますよね。これによってワクチンの効果を得ようとしているようです。

――それはいわゆる集団免疫を獲得しようというような行動ですか?

古藤:そう解釈されています。ただ、このときランダムに仲間と接触するとどんどん感染が広がって行ってしまいますから、このとき彼らは決まった仲間の集団だけで接触をするようになって、社会的なネットワークが変化するということも最近の論文では報告されています。

――それはなんだか、コロナウイルスが広まったときに、人間の社会でもただの風邪だと言って仲間内だけで積極的にパーティーを開く人たちがいたり、逆に危険だと判断した人は外出を控えて距離を取るようにしたりと人同士のネットワークが変化したことと符号する気がしますね。

古藤:そうですね。感染症のリスクは社会を作って暮らす生物にとっては逃れられない宿命なので、あらゆる手段で戦おうとするのは、生物共通なのだと思います。

――コロナウイルスで起きた社会的な混乱って、見ていてなんだか人間って愚かだな、みたいな気分にさせられましたけど、それは人間に心があって身勝手な人がいるとかそういう問題ではなく、社会性を持つ生き物なら人間でなくとも自然と色んなスタンスで対処して全滅を避けようとするってことなんですね。非常に興味深いです。

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