夢の中で演奏されたQueenの名曲を現実世界に転送することに成功!
夢の中で演奏されたQueenの名曲を現実世界に転送することに成功! / Credit:canva
psychology

明晰夢の中で演奏した曲を現実世界に転送することに成功!

2023.09.08 Friday

夢の中にいながら夢を見ているのに気づいている状態を「明晰夢」といいます。

明晰夢に入ると夢の内容を自由にコントロールできるので、自分の意志で夢の中を行動したり、望みの状況を作ることができます。

まさに夢のような話です。

そして今回、米カリフォルニア州に拠点を置くスタートアップ・REMspaceは、この明晰夢を利用した驚くべき実験を行いました。

なんと明晰夢を見ている人が夢の中で演奏した音楽をリアルタイムで現実世界に転送したのです。

夢から転送したのは、Queenの名曲「We Will Rock You」でした。

研究の詳細は、アメリカの夢に特化した唯一の科学雑誌『Dreaming』に掲載されています。

Lucid dreamers transmit musical melodies from dreams to reality in real-time in groundbreaking study https://www.psypost.org/2023/09/lucid-dreamers-transmit-musical-melodies-from-dreams-to-reality-in-real-time-in-groundbreaking-study-183621 Listen To Music Translated From A Lucid Dream Into The Waking World https://www.iflscience.com/listen-to-music-translated-from-a-lucid-dream-into-the-waking-world-70551
Real-time transferring of music from lucid dreams into reality by electromyography sensors. https://psycnet.apa.org/record/2023-75194-001

夢の中の音楽をリアルタイムで現実に転送する⁈

夢の中の音楽を現実世界に転送できるか?
夢の中の音楽を現実世界に転送できるか? / Credit: canva

明晰は1913年に、オランダの心理学者フレデリク・ヴァン・イーデン(Frederik Van Eeden)によって初めて科学的に記述されました。

それから長年にわたる研究で、明晰夢は確かに存在することが実験下で証明されており、明晰夢を見ている間は、前頭前皮質や後頭側頭皮質といった特定の脳領域が活性化することが明らかになっています。

特にREMspaceのCEOで研究主任のマイケル・ラドゥーガ(Michael Raduga)氏が注目しているのは、明晰夢の中では好きな音楽を聴いたり、新しい音楽を創造したり、リズムやメロディーを自由にコントロールできることです。

これを受けて夢の専門家らは、音楽家が明晰夢の経験から新しい作曲のアイデアをつかんだり、演奏技術を向上させられるかを研究しています。

しかし、それにあたって大きな課題となっていたのが、夢の中で得たものを正確に現実世界へと持ち帰ることでした。

夢から覚めた後では、意識が不鮮明であったり、夢の内容を忘れたり歪曲することで、明晰夢の中で作曲したリズムやメロディーを正確に記録できない可能性もあります。

そこで最も確実な方法となるのは、明晰夢を見ている最中に音楽のアイデアをリアルタイムで現実世界に転送することです。

言葉にするのは簡単ですが、そんなSFじみた技術をどうやって再現するというのでしょうか?

驚きの実験方法とは?

その方法としてラドゥーガ氏らは、筋電図(EMG)とそのデータを音に変換するソフトウェアを使えば、明晰夢の中の音楽を現実に転送できるのではないかと仮説を立てました。

筋電図(EMG)とは、筋肉を動かすことで発生する電気信号を検出するもので、従来の夢研究でも、夢を見ている被験者の身体活動を記録するために多用されています。

この仮説を実証すべく、ラドゥーガ氏らは以下の実験を行いました。

まず、明晰夢を見た経験のある4人の被験者に協力してもらい、脳波(EEG)・眼電図(EOG)・筋電図(EMG)を測定するセンサーを取り付けます。

次に、腕を使って夢の中で曲を演奏する方法を訓練しました。

ここで選んだのは、Queenの名曲「We Will Rock You」のイントロ部分である有名な「ズンズンチャッ、ズンズンチャッ」というメロディーです。

具体的には、ズンズンに合わせて左手を2回閉じ、チャッに合わせて右手を1回閉じる。そのときに発生した筋電図(EMG)のインパルスを専用のソフトウェアを使って、実際の「ズンズンチャッ」という音に変換します。

実験の様子はこんな感じ。

手で「ズンズンチャッ、ズンズンチャッ」を刻む
手で「ズンズンチャッ、ズンズンチャッ」を刻む / Credit: REMspace – Transferring of music from lucid dreams into reality(youtube, 2023)

この一連の訓練の次は、実際に夢の中に入って演奏をします。

チームは睡眠ポリグラフデータを記録して睡眠段階を監視し、被験者が明晰夢に入ったことを確認しました。

また被験者には事前に、明晰夢に入ったら特定の眼球運動を行うよう指示しており、眼電図(EOG)によってそれを確認します。

マトリックスの世界に入ったことを確認するみたいですね。

そして被験者には夢の中で、We Will Rock Youの「ズンズンチャッ、ズンズンチャッ」を訓練した通りの方法で演奏してもらいます。

夢を見ている間は睡眠麻痺を起こしているので、覚醒時と同じようには身体が動きません。

しかし手の動きを鮮明にイメージすることで、脳から腕の筋肉へ電気信号が送られます。

当然ながら覚醒時より電気信号は微弱になりますが、それを拾うことができれば夢の中で取った行動を現実世界へ転送することが可能です。

明晰夢を見ている被験者と記録された筋電図(EMG)
明晰夢を見ている被験者と記録された筋電図(EMG) / Credit: REMspace – Transferring of music from lucid dreams into reality(youtube, 2023)

その結果、合計で7回の明晰夢が確認され、そのうち6回では被験者が夢の中で訓練通りのイントロを演奏することに成功しました。

ただし技術的な問題や筋電図(EMG)の弱さから、現実にメロディーとして転送できたのは3回でした。

しかしその3回では確かに、眠っている被験者の演奏した「ズンズンチャッ、ズンズンチャッ」を現実世界で聞くことができたのです。

その驚きの様子はこちらの映像内でご覧いただけます。

どうでしょうか?

途切れ途切れではあるものの、確かにWe Will Rock Youが再現されていますね。

ラドゥーガ氏は今回の選曲について、メロディーラインがシンプルで訓練がしやすいことを理由にしていますが、「実際には転送できるメロディーの複雑さに制限はなく、技術的にもそれほど難しいものではない」と述べています。

そうだとすれば将来的には、音楽家が夢の中で作曲したクラシックやロックソングなども、リアルタイムで現実世界での録音ができるようになるかもしれません。

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