「神は人間の弱さが生んだ」。アインシュタインの「手紙」が3億超で売却される

philosophy 2018/12/07
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Point
・アインシュタインのが1954年に書いた「神の手紙」が、オークションにて289万ドルで落札される
・手紙には「神の概念は人間の弱さを表現したもの」など、宗教に対して否定的な姿勢が見られる
・アインシュタインはただ無神論を主張しただけではなく、哲学者であるスピノザの「汎神論」には賛同していた

20世紀最高の物理学者のひとりとして名高いアインシュタイン。

そんな天才が宗教問題について認めた「神の手紙」という書簡が最近、オークションにて289万ドル(およそ3億2700万円)で落札されました。アインシュタインは一体どのような宗教・哲学的思想を綴ったのでしょうか。

「神の手紙」は、彼が亡くなるおよそ一年前の1954年、当時74歳のときに書かれたものです。送り先は、ドイツの哲学者であるエリック・グートキント。その手紙には、「神の存在」に対する考察が1ページ半にわたってドイツ語で綴られています。

手紙の中では、神の概念についてこう記しています。「『神』という言葉は私にとってまったく無意味であり、人間の持つ弱さが生んだ産物以上の何ものでもありません。聖書は尊ぶべきものではありますが、それでも子どもじみた原始的な伝承の寄せ集めに過ぎないのです」「神に対するいかなる解釈も、この私の考えを変えることはないでしょう」。このような表現からも、彼の宗教に対する否定的な態度をうかがうことができます。

また、「神の手紙」では、ユダヤ人というアイデンティティに対する考察も見られます。アインシュタインは、ユダヤ教も他の宗教と同じように「原始的な迷信の権化」であると書いています。さらに、「ユダヤ人は、私自身もその内のひとりであることを快く思っていますし、精神的にも深いつながりを抱いているのですが、それでも他の人種とは異なる何か特別なものを持っているとは思っていない」と、ユダヤ人を特別視することもありません。

1996年に出版されたアインシュタインの伝記によると、実はアインシュタインも幼少時代は信心深い有神論者でした。しかしアインシュタインが13歳のとき、何でも信じて無批判的である宗教的態度に嫌気がさし、袂を分かちました。彼はこのときの心情について「宗教は嘘を信じさせ、騙そうとしていると感じた」と述懐しています。

一方アインシュタインは、「自分は無神論者ではない」とも主張していました。「無神論を熱狂的に支持することは、神を絶対的に信じる宗教の態度と同じもの」だというのが彼の基本姿勢なのです。

さらに彼は、17世紀に活躍したオランダの哲学者スピノザの「汎神論」という神の概念にも賛同しています。スピノザは「神」という概念を通して、この世界を一元論として解釈した最初の思想家です。スピノザ以前は、フランスの哲学者デカルトが唱えた物心二元論が支配的でした。物心二元論は、この世には「物」という実在と「心」という実在が別々にあって、それら二つを調和させているのが神様だ、といった考え方です。

対して、スピノザの「汎神論」の「汎」には、「広くすべてに行き渡る」という意味があります。つまり「汎神論」において、神は存在するすべてのものに浸透しており、この世界はまとめて神の一部であるというのです。

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しかしスピノザの「汎神論」はキリスト教に大きく反するものとして、当時の社会では到底受け入れられるものではありませんでした。なぜならキリスト教では、まず神が存在し、その後に世界を創造するため、神はすべての存在に先立って存在しているからです。しかし、「汎神論」における「神=世界そのもの」という考えに立つならば、もはや神はすべての存在に先立つ超越者ではなくなってしまいます。

つまり、スピノザの唱える神は、キリストのような人格神ではなく、万物の中そのものに神性が宿ることで自然界の美しき法則を成り立たせているのです。このようなスピノザの思想に触発されたことで、アインシュタインは自然界に合理的な法則をもたらすための「相対性理論」を生み出すに至ったのでしょう。

 

競売を行ったニューヨークのクリスティーズ・オークションは「当初は150万ドルほどで落札されると予想していたが、2倍の高値で落とされたことに驚いている」と言います。「神の手紙」は、ただ無神論を主張するようなものではなく、物理学者としての「神」という概念の美しさを追求したアインシュタインの天才性が宿っている貴重なものと言えるでしょう。

 

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via: bbctheguardian / translated & text by くらのすけ

 

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