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一人の罪をみんなで償う「連帯責任」は逆効果だった

2021.01.27 Wednesday

2019.07.16 Tuesday

Credit: depositphotos

Point

■特定の生徒の問題行動を全体の責任とみなして罰を科す「連帯責任制」は、オーストラリアでは多くの学校が採用している

■その効果は動物実験によっても立証されており、皮肉にも連帯責任を課すことでクラスの団結が強まることもある

■しかしこのテクニックに対する反対意見も根強く、研究によって逆効果であるとされたこともある

過度の自己批判が「心の脆弱性」をつくりだす

学級崩壊やいじめなど、毎年多くの教師が教室運営が原因で心を病んで辞めていく。

そのため、教師たちはこれまで、いかに効率よく教室を運営して生徒たちの問題行動を正すのかを考えてきた。

そうしたアプローチの中の1つに「連帯責任制」がある。直接問題行動を起こした生徒のみならず、同じクラス、同じ学年など同一の集団に属している生徒は皆、処罰対象となる制度だ。

具体的な例としては、特定の学年がグラウンドを適切に使用しなかったために、学校全体の生徒にグラウンド使用禁止が強いられるような場合が挙げられる。

オーストラリアの学校でよくみられる連帯責任制だが、日本でも経験したことのある人が多いのではないだろうか。少々理不尽にも思えるこの制度だが、今もなおこのシステムを採用する学校が多いのはなぜだろうか?

こうした制度はすべて、教師から注意された時の生徒の不快感が、それだけでは不十分であるといった考え方に基づく。

もともと集団を処罰するこのテクニックは、1960年代にラットや他の動物を用いた動物実験によって確立された。それが今日では、様々な形で教室運営に応用されているのだ。

つまりその効果はすでに実証済みであり、疑いようのない効果があるということになる。

しかし教師たちが連帯責任制を採用する理由はそれだけではない。皮肉のようだが、教師たちは、このシステムを用いることでクラス内の団結を強めようとすることもある。

一部の生徒のおこないが全体の責任に及ぶのであれば、否が応でもグループを構成する生徒同士の距離感は近くなっていくという考え方に基づいている。

この考え方は、スポーツの世界や軍隊でよく適用されており、連帯責任制によって構成員一人ひとりの責任感を強化することが可能なのだ。

制度への批判も多い

この「連帯責任」には否定的な声も根強い。

理由は主に2つある。1つは「モラル的に許されるべきではない」といったもので、もう1つは「長い目で見れば、子どもの良いおこないを促すものではない」といったものだ。

集団で責任を負うといった考え方は、そもそも西洋の個人主義的な、自由を重んじる社会の風潮に反するものだ。法的にもモラル的にも、そこでは1人の人間それぞれが、自分自身の行動とその結果に責任を持って生きているのだ。

さらに、罰が行動の改善に対して効果的ではないことを明らかにした研究も存在している。そこで研究者らは、制裁によって生徒たちの将来における態度が逆に悪化してしまうことを示唆しているのだ。

ではこうしたテクニックが使えないとなれば、教師たちは他にどういったオプションを持っているのだろうか?

教師が連帯責任制を用いるのは、主にクラスの秩序を保つためだ。教室がうるさすぎたり、宿題をしない生徒がいたり、ゴミで教室が汚れてしまうことを防ぐために、教師は即効性があるこのテクニックに頼るのだ。

生徒の問題行動は、たいていの場合生徒が学校に帰属意識を持っていない場合に引き起こされる。そのため学校ができることとしてはまず、生徒たちに自分が学校という組織の一員であることを自覚させる必要がある。

こうした自覚を促すためには、生徒の興味を引くような授業をデザインしたり、楽しく安全に学ぶための環境を整えてあげることで、生徒の満足度を優先的に考慮することが重要だ。

もし生徒が学校を好きになり、学校で過ごす時間を大切にしたいと思っているのであれば、自ずと態度も改善されていくということだ。

とはいえ画一的な対策は難しいため、モチベーションの低い生徒を見つけたときには、教師は個人に合った指導をしていくことが求められるだろう。

結局のところ、やはり教室のマネジメントというのは、教師一人ひとりの力量に委ねられる部分が多い仕事となるようだ。しかし、その際に安易に連帯責任制を導入するのは考えものらしい。

ひょっとすると将来的には「AI教師」が上手にクラス運営をおこなってしまうのかもしれないが、現時点ではまだ、現役の先生方に精一杯頑張ってもらうしかなさそうだ。

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reference: theconversation / written by なかしー

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