ないものを「見せる」ことに成功! 光で脳神経を操作

biology 2019/07/22
Credit:depositphotos

Point

■光遺伝学は、光で活性化されるタンパク質を細胞内に発現させ、光の照射で神経細胞の活動を制御する技術だ

■光遺伝学により神経細胞を一部遺伝子操作されたマウスに対して、レーザー光線の照射で存在しない線を見せることに成功した

■光遺伝学による神経制御技術はかなり進歩しており、今後は匂いや触覚、味などの近くも自由に作り出せる可能性がある

光遺伝学と呼ばれる分野をご存知だろうか。

これは細胞内に光の刺激で活性化するタンパク質を作り出し、特定の波長の光(レーザー光線)を照射するだけで、高精度でターゲットの神経細胞のみを活性化させる技術だ。

脳神経科学分野に衝撃を与え、ネイチャー・パブリッシング・グループにより、科学全分野の中で、最も優れた研究手法として「メソッド・オブ・ザ・イヤー2010」にも選定された注目の最新技術だ。

そんな光遺伝学の研究において、マウスを使った実験で、レーザー光線を脳に照射することで存在していない線をマウスに見せることに成功したという報告が発表された。

視覚をジャックしたに等しいこの成果は、光遺伝学の目覚ましい進歩と、人の感覚を自由に操作できる未来への可能性を示すものとして、注目されている。

この研究はスタンフォード大学の研究者グループにより発表され、7月18日付けでSienceに掲載されている。

Cortical layer–specific critical dynamics triggering perception
https://science.sciencemag.org/content/early/2019/07/17/science.aaw5202

光で脳を制御する 光遺伝学

Credit: Pixabay

光遺伝学は21世紀になってから実用的な研究が始まったばかりの脳神経学における新しい神経制御手法だ。

光遺伝学の原理は、簡単に説明すると、神経細胞の中に特定の波長の光(青いや緑色)で活性化するタンパク質を発現させ、ピンポイントに光を照射することで神経活動を細胞単位に自由にオン、オフできるというものだ。しかもその応答速度はミリ秒単位だという。

微生物からヒトに至るまで多くの生物種には、光で活性化するタンパク質があることが知られており、これらのタンパク質は光の刺激によってイオンを発生させる。

細胞内でイオンが発生すると、細胞内外のイオン濃度の差によって電位が生じ、神経細胞が活性化するのだ。このタンパク質は逆に細胞内のイオンを汲み出す作用をするものもあり、この場合は神経細胞の活動を抑制させる方向に働く。

これまで神経細胞の制御に電気刺激を用いた方法などは存在していたが、従来の方法では広範囲に電気刺激を与えてしまうため、関係ない神経細胞まで活性化させてしまい神経の制御という意味においてあまり有効ではなかった。

薬物を利用した脳神経の制御方法もあるが、これは応答時間という点については非常に遅く、また大雑把に神経を活性化、または抑制するだけのものなので神経の制御と呼ぶには程遠いものだった。

光遺伝学による手法では、まさに細胞単位での活性・抑制の制御が可能になる。

ただ、光に反応するタンパク質は通常細胞内に発現していない。

そのため、この手法を使うためには、細胞内でこの光活性のタンパク質を発現させるような遺伝子操作が必要になる。現在これは、ウィルスベクターというものを使っている。

ウィルスベクターはその名の通り、任意の遺伝子を生体に運び込むウィルスの運び屋だ。任意の遺伝子組換えウィルスが特定の細胞に感染し、目当ての遺伝が細胞内で働くように作用させるのだ。

なにそれ、怖い。という気もするが、こういうことをやっているので、この手法は光”遺伝”学と呼ばれるわけだ。

神経制御で存在しない物を見ているマウス

Credit: PIxabay

今回の実験ではマウスが、水平線、または垂直線を見た際に活性化される脳のニューロンを調べ、該当の神経をピンポイントでレーザー照射し神経細胞の活性を試みた。

マウスは、もともと水平線などを見た場合、その線の先にある注ぎ口から水を飲むように訓練されている。

そして、何も見えない暗闇の状態で、水平線(あるいは垂直線)を見たとき活性化するニューロンへレーザー照射を行ったのだ。

すると何も視覚的な情報の入力がない状態にも関わらず、マウスは確かに線を見てその先にある注ぎ口の水を飲んだのだという。

これは人工的な脳への刺激によって、他のニューロンが連鎖的に反応し、脳の視覚に関わる部分が本物の視覚同様に反応したことを示唆している。

研究者のDeisseroth教授は、同様の手法を用いれば、匂いや感触、味など他の知覚を人工的に作り出すことも可能だと語っている。

さらに、この手法を発展させていけば、より複雑なニューロンの集合体を制御することも可能になるだろうという。それはこの手法を使って、記憶を取り扱うことも十分に可能な話しということだ。

脳に電極を埋め込む様な研究に比べると、こちらの分野の発展に期待したくなってくる。

©川原 礫/KADOKAWA

この手法が確立されれば、ウィルスベクターを投与しさえすれば、あとは脳内にレーザー光を届けるヘッドギアのような物をかぶるだけで自由に知覚を操作できるようになる可能性があるのだ。

そのうち、『PS Optogenetics』的なものが発売されるかもしれない。

2020年中に人間の脳と機械を直結する「Neuralink」 中には懐疑的な意見も…

reference:sciencenews/ written by KAIN

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