『天気の子』の心理学的考察 みんなが感じた「違和感」の正体を探ってみた【ネタバレ注意】

Credit: 2019「天気の子」製作委員会

公開1ヶ月後で興行収入100億円を突破した、新海誠監督の映画最新作『天気の子』。大ヒットの前作『君の名は。』にどこまで迫るかが注目されています。

筆者は前回『君の名は。』考察記事(別サイト)を書いて大反響をいただいたのですが、「みんな(セカイ系で中二病な)新海監督が好きなんやな!」という手応えを感じました。

なので、今回も『君の名は。』のようなセカイ系ファンタジーな作品を期待していましたし、正直、また良い感じにオカルトとか神話目線からの考察記事が書けちゃうんじゃないかという下心をもって公開初日に鑑賞したわけです。

ところがどっこい。

この作品は「違和感」だらけでした。単なるファンタジーではない「現実社会」の何かを描こうとしている。新海監督から挑戦状を叩きつけられた気分でした。

そして鑑賞後、「オカルト的な考察では火傷する」という警告が私の頭の中で発生したのです。

まず、『君の名は。』とはまったく違う出来上がりです。そして従来のセカイ系とも違う。すぐに似た作品を特定したがるジャンル特定厨の私は、頭を抱えました。

しかしネットを開けば、「◯◯に似ている」という声があふれています。しかもその似ているとされる作品は、ジブリ作品から18禁エロゲーまでバラバラです。いやバラバラにもほどがあるぞ。

そしてジャンルだけではありません。なんなら賛否も分かれています。ここまで評価がとっ散らかっている作品も珍しいでしょう。

実際、『天気の子』の「違和感」に関する記事は多数公開されています。

映画『天気の子』を観て抱いた、根本的な違和感の正体(現代ビジネス)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66422
『天気の子』の“モヤモヤ感”の正体…粗が目立つ物語&回収されない伏線への違和感(ビジネスジャーナル)
https://biz-journal.jp/2019/07/post_111574.html

しかし「違和感」というテーマを同じくしてさえ、その評価はバラけています。一体何が起きているんです…?

そこで、この映画にはもしかすると、人によって評価を玉虫色に変えてしまう「決定的な何か」が潜んでいるんじゃないかと思ったわけです。

悩みに悩んだ私は、その謎を解明するためアマゾンの奥地…ではなく、元臨床心理士の春井星乃さんにお話を聞くことにしました。それこそアマゾンの奥地まで行けるほどの文章量です。満を持していたらこんな時期になってしまいました…。ただ、今だからこそ生まれた考察でもあります。ゆっくりでも読んでいただけると嬉しいです。

『天気の子』の隠されたテーマは「法外のシンクロ」

Credit: 2019「天気の子」製作委員会

まき この作品ほど評価が分かれるものも珍しいと思うんですが、あえていきなり聞きます。春井さんはこの映画を観て最初にどう感じました?(ゴクリ)

春井 そうですね、まず思ったのは「この作品のテーマは法外のシンクロだろう」ということでした。さすが新海監督、今一番タイムリーというか重要なところを突いてきたなと。

まき …いきなりボロクソに批判されたらどうしようかと思っていたので、冷静なご回答に少し安心しました。しかし何か早速難しそうな用語が出てきましたね…。法外のシンクロがタイムリー? まず法外のシンクロとはなんぞや…?

春井 映画を観る前に、毎日新聞の新海監督のインタビュー記事を読んだのですが、そこにこんな記述があったんです。

(中略)もう一つの理由は、昨今、何か窮屈さみたいなものがずっとあったことです。
SNSが典型ですけれども、正しい言葉以外は、一斉にたたかれる。それも社会的な正しさ、国際的な正しさ、ポリティカル・コレクトネスという言葉もありますが、「正しさ」だけが流通してしまっている。
でも僕は、個人の願いとか個人の欲望とかって、時にはポリティカル・コレクトネスとか、最大多数の幸福とかとぶつかってしまうことがあると思う。でもそういうことが今、言えなくなってきています。常に監視されているような中、ルールから外れたことを言ってしまうと一斉にたたかれるし、常にたたく対象を探す祭りが起きているような雰囲気。
そういうところへの反発やいらだちが私の中でずっとあり、この閉塞感やどうしようもなさを吹き飛ばしてくれる少年少女がほしいという気持ちがありました。そういった2つの気持ちからこの企画になっていきました。
※毎日新聞「深海監督と川上プロデューサーインタビュー上」より
https://mainichi.jp/articles/20190723/k00/00m/040/210000c

まき このインタビューは私も読みました。今のSNSや時代の雰囲気を上手く捉えているなと。で、これと法外のシンクロがどう関係してくるんですか?

春井 法外のシンクロというのは社会学者の宮台真司さんの言葉なんですけど……『万引き家族』は見ましたか?

まき はい。去年公開された是枝監督の作品で、確かカンヌ国際映画祭で賞を取ったやつですよね。ボロ泣きでしたが?

春井 そうでしたか(笑)。あの作品は、万引きで生計を立てている血のつながらない疑似家族の絆の物語でしょ。万引きというのは違法。だから法外ってこと。シンクロというのは、まあ共感とか絆と言っていっていいんじゃないかな。だから、『万引き家族』のテーマも「法外のシンクロ」なの。

まき ああ、なるほど。法を超えたところで結びつく人間の絆ということですね。そういえば新海監督も『万引き家族』を観た時に、自分とやりたいことが近いなと感じたそうですよ。

春井 そんなにはっきり仰ってたんですね。宮台さんは、その法外のシンクロこそが本当の人間の結びつきだと言っているんです。

まき ふむふむ。でも、なんで「法外」であることが大事なんですか?「法外」って要はダメなやつですよね。盗んだバイクで走り出したり学校の窓ガラス割ったり。

春井 そう、普通そう思いますよね。でもこれにはふか〜い理由があるんです。それを説明するには、人間の意識の発達過程についてお話する必要があるんですけど……

まき 新海監督の感想から、心理学の専門知識が掘り起こされるわけですね!オラなんかワクワクしてきたぞ。

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