地上と宇宙を隔てた前例のない遠距離治療が行われる

medical 2020/01/15
ISS/Credit:NASA
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  • ISS滞在中の宇宙飛行士が、DVTという血栓症を引き起こし、地上と宇宙の距離を隔てた治療が行われた
  • 治療を担当したステファン・モール氏は「宇宙の微小重力環境が血流に影響を及ぼし、血栓症を引き起こす可能性もある」と指摘

前例のない地上-宇宙間の遠距離治療が行われました。

ISS(国際宇宙ステーション)滞在中の宇宙飛行士の頚動脈に、DVT(深部静脈血栓症)が発見されました。

分かっている情報は、6ヶ月間の宇宙ミッションの2ヶ月目でDVTが見つかったということです。しかし、宇宙滞在中のクルーにDVTが見つかったのは今回が初のことで、微小重力空間でのDVT治療法は確立されていません。

そこでNASAの医療チームは、血栓症に詳しいアメリカ・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のステファン・モール氏に協力を要請し、最適な対処を求めました。

DVTって何?

DVTは、深部静脈において血液が凝結し血栓ができる病気で、その多くは脚に発症します。ところが、今回の宇宙飛行士は、首のけい動脈に発症していました。

主な症状は、患部の腫れや痛み、発熱などがありますが、半数は無症状のまま気づかれないこともあります。また、合併症としては、剥離した血栓の塊が肺に移動して、肺血栓を起こします。

DVTを発症した右脚/Credit:ja.wikipedia

宇宙飛行士のDVTは無症状でした。血栓が発覚したのは、微小重力下における血流の状態を研究するための調査時です。

DVT患者に対する一般的な治療法は、血栓の肥大化と転移を防ぐため、少なくとも3ヶ月間、血液希釈剤を投与します。一方で、希釈剤は、血が固化を緩和する薬であるため、体内に傷を負っていると、内出血を止めるのが困難になるリスクもあります。

いずれにせよ、緊急の処置が必要なことに変わりありません。

これまでにない遠距離治療

モール氏とNASA医療チームは、話し合いの結果、希釈剤による治療がベストと判断しました。

しかしモール氏は「ISSにある医療物資は少なく、血液希釈剤も数が限られていた。そこで、次回の物資供給まで持つように、投与量を慎重に決める必要があった」と話しています。

モール氏/Credit:UNC School of Medicine

こうして希釈剤による治療が40日にわたり継続し、投与から43日目に新しい血液希釈剤が送り届けられました。全体で90日以上続いた治療期間を通して、モール氏は、宇宙飛行士とメールや電話でコンタクトを取り、詳しい診断を行ったそうです。

その時の様子について、モール氏は「ISSは地上から約400km離れた場所を時速2万7000キロで移動しているにも関わらず、スムーズに通話することができた」と話します。

宇宙空間が血流に影響を及ぼすか?

その後、治療は順調に続き、宇宙飛行士が地球に帰還する4日前に、希釈剤の投与を停止しています。大気圏への再突入時の衝撃が、身体に影響を与え、希釈剤に伴う出血が悪化してはいけないとの判断からです。

宇宙飛行士は、現在、無事地球に戻っており、血栓症も回復しています。

モール氏/Credit:UNC School of Medicine

その一方で、モール氏は「宇宙飛行士に見られたDVTは無症状であり、血流の検査がなければ気づかれずに放置されていたかもしれない。もしかしたら、微小な重力環境が血栓を引き起こした可能性も考えられる。そのため、宇宙での滞在が血流に及ぼす影響については今後も研究されなければならない」と指摘します。

この研究は、今後、人類が宇宙進出する可能性を考慮すると不可欠なものでしょう。

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reference: sciencedailylivescience / written by くらのすけ
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