ブラックホールの周辺は住めるのか?映画『インターステラー』を発端にした宇宙研究

space 2020/02/09

Credit:Warner Bros. UK/Interstellar – Trailer 3 – Official Warner Bros.
point
  • 超大質量ブラックホールの周辺のハビタブルゾーンは、限定的な条件で実現が可能
  • このとき、重力で圧縮された宇宙マイクロ波背景放射が太陽光の代わりとして機能する
  • 思考実験で想定された非常に極端な環境であり、現実に発見することは難しい

過去のイメージとは異なり、ブラックホールは何でもかんでもお構いなしに吸い込むわけではありません。近年、太陽などの恒星と同様に、その周囲に惑星が形成される可能性があることがわかってきました。

そうなると気になってくるのが、ブラックホール周辺で人類などの生命が居住可能な「ハビタブルゾーン」は存在するのか? という問題です。

今回、その可能性について真面目に検証した研究が発表されました。

しかも面白いことに、この研究は2014年に公開されたSF映画『インターステラー』に触発されたのがきっかけだったというのです。

SF映画の設定を真面目に思考実験してみた、というこの研究。果たしてブラックホールの周りに人類が住むことは可能なのでしょうか?

この研究は、チェコ共和国のシレジア大学の天体研究者Pavel Bakala氏を筆頭とする研究チームにより発表され、天文学の科学雑誌『The Astrophysical Journal』に1月23日付けで掲載されています。

Habitable Zones around Almost Extremely Spinning Black Holes (Black Sun Revisited)
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab5dab

研究者が触発された映画『インターステラー』

Credit:Warner Bros. UK/Interstellar – Trailer 3 – Official Warner Bros.

SF映画『インターステラー』では、人類の移住先候補として、超大質量ブラックホールの周囲を公転する惑星が取り上げられます。

主人公の宇宙飛行士は、土星近くで発見されたワームホールをくぐり抜け、超大質量ブラックホール『ガルガンチュア』の周りを公転するいくつかの惑星を訪れます。

この映画は最新の宇宙論を取り入れたことが話題となっていて、巨大ブラックホール「ガルガンチュア」のビジュアルも、一般相対性理論に基づいたシミュレーションを忠実に再現して描かれています。

NASAの公開したブラックホールのシミュレーション画像。/Credits: NASA’s Goddard Space Flight Center/Jeremy Schnittman

そんなわけで、この映画はプロの天文学者にも興味深い内容になっていたようです。

今回の研究者は、この映画に触発され、実際ブラックホールの周辺で居住可能な惑星を見つけられるのかを真面目に考えてみたといいます。

ブラックホール周辺のハビタブルゾーン

地球上の大気温度は、大気を加熱する太陽エネルギーと、地球から宇宙空間へ放出されるエネルギーのバランスで成り立っています。

地球エネルギー収支。/Credit:NASA,Wikipedia Commons

Bakala氏は、そんな惑星の熱力学(thermodynamic)の観点から、今回の問題にアプローチしました。

生命の居住可能環境には、利用可能なエネルギー源(地球の場合は太陽)と廃熱の吸収源(冷えた宇宙空間)が必要です。

太陽の代わりにブラックホールが存在するという環境で、この条件はクリアできるのでしょうか?

インターステラーの場合、これが逆になっていました。

太陽に当たるブラックホールが冷たい熱吸収元であり、宇宙空間から熱源となるエネルギーとして宇宙マイクロ波背景放射(CMB)が来ているのです。

CMBは、ビッグバンの残光やこだまと表現される電波です。これはもともとビッグバンが放った強力な放射線でしたが、宇宙空間が膨張するに従って波長は引き伸ばされ、現在はただの電波となって漂っています。

このままでは熱源として利用はできません。

しかし、超大質量ブラックホールの周辺では、極端な重力によってCMBの波長は再び圧縮されて、太陽光の代わりになるような高エネルギーの放射線になっているのです。

「ブラックホール周辺の惑星にとってCMBは、ブラックホールの端にある明るい星のように見えるだろう」と研究者は話します。

しかし、この圧縮されたCMBから十分に強い光を受け取るためには、惑星がブラックホールの「事象の地平面」のかなり近くを公転する必要があります

当然「事象の地平面」を超えてしまえば惑星は粉々に砕かれてしまいます。

高重力により空間が滝壺のように歪んだ脱出不可能なポイントが事象の地平面。/Credit:pixabay

研究者が計算した結果、惑星が事象の地平面に接近しながら、安定した公転軌道を保つには、ブラックホールが非常に大きく、ほぼ光速で回転している必要がある、ということがわかりました。

「ほぼ光速度」とは光速度から1億分の1%未満しか速度が低下していない圏内を指しています。

またブラックホールが小さいと事象の地平面の外側でも、ブラックホール本体に近すぎるため、潮汐力の影響で惑星が引き裂かれてしまいます。

これは天の川銀河の中心にある、太陽質量の400万倍程度のブラックホールでは成立しません。

この惑星を破壊するような潮汐力の影響を、事象の地平面近くで受けないようにするためには、太陽質量の約1億6300万倍という極端なサイズが必要になります。

さらに、惑星内で生命が繁栄するには、ブラックホールの周囲がほぼ何もない平穏な空間でないといけません。

もし周囲に、多くのチリやガス、恒星が浮遊していれば、ブラックホールがそれらを吸い込んだ時に放出する大量の放射線により、惑星内の生命を死滅させてしまう恐れがあるのです。

現実的には無理がある…

ハーバード大学の理論物理学者Avi Loeb氏は、このブラックホール周辺のハビタブルゾーンについては、実現できないだろうと語っています。

その第一の理由は、今回の理論で必要されているブラックホールの極端な自転速度は、物理的限界値であり、これほど速くブラックホールを回転させるメカニズムは現在のところ見つかっていないためです。

もう一つは、惑星が事象の地平面すれすれを公転することです。

昨年、日本の研究者によってブラックホール周辺でも惑星が形成される可能性があることが示されましたが、その惑星を、事象の地平面近くまで移動させる方法は、理論上考えられないと言います。

もちろん今回の研究を発表したBakala氏自身、これは知的トレーニングであって、実際に発見することは難しい、ということを認めています。

現実にブラックホールを太陽のように眺めながら暮らす惑星を見つける、というのは難しいようです。

しかし、映画を発端にして、科学者がこうした真面目な検証をしてくれるというのは、SF好きにとって楽しい研究報告ですね。

巨大ブラックホールを中心に回る、まったく新しい「惑星」系が存在した

reference: sciencemag / written by くらのすけ,edited by KAIN
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