摩訶不思議な「金属で呼吸する細菌」、実は量子レベルの操作を行っていたと判明

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シェワネラ・オネイデンシスの拡大画像/Credit:wikipedia
point
  • 空気のない場所でも金属に電子を吐きだして呼吸している細菌が発見された
  • 細菌は電子の放出効率を上げるために、電子のスピン方向を統一していた
  • 仕組みを解明することで量子生物学と生体量子コンピューターの開発に役立つ

全ての生命は呼吸を行っており、私たち人間を含めた全ての多細胞生物は酸素呼吸を行っています。

しかし地球の地下深く、空気の存在しない場所では、なんと酸素の代わりに金属で呼吸する生物がいました。

今回、研究者によって調査されたS. oneidensis(シュワネラ・オネイデンシス)と呼ばれる細菌は代表的な金属呼吸を行う細菌として知られており、マンガンを初めとして鉄、鉛、水銀、ウランなどの固形鉱物を使って呼吸をしています。

なので、菌表面に接続された回路電極や金属を取り去ってしまうと、オネイデンシスは金属呼吸が行えなくなって窒息し、直ぐに死んでしまうのです。

そんな非常にユニークな呼吸を行うオネイデンシスが、その呼吸の詳細な仕組みまでは知られていませんでした。

ですが今回、イスラエルの研究者による研究の結果、オネイデンシスの呼吸は、電子のスピン方向の制御をともなった、量子レベルでの調節が行われていることが明らかになりました。

量子レベルで呼吸を制御している生物が発見されたのは、はじめてです。

今回の研究は近年、急速な勢いで発展している「量子生物学」とタンパク質ベースの「生体量子コンピューター」の発展に大きく貢献すると考えられます。

金属で呼吸するオネイデンシスは、量子レベルでの反応をどのように制御しているのでしょうか?

研究内容はイスラエル、ワイツマン科学研究所のスリャカント・ミシュラ氏らによってまとめられ、2019年11月8日に学術雑誌「Journal of the American Chemical Society」に報告されました。

Spin-Dependent Electron Transport through Bacterial Cell Surface Multiheme Electron Conduits
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.9b09262

電子スピンの制御が呼吸効率を上昇させる

左上はシトクロムタンパク質から出入りする電子の図。シトクロムのキラリティーにによって、授受する電子のスピン方向が偏る。図では、シトクロムから出ていく電子が上方向で、入って来る電子が下方向のスピンをもつことを示している。左下は測定機械/Credit:Journal of the American Chemical Society

全ての生命活動は、電子の流れを生じさせます。

そのため、呼吸の正体も電子の流れにあると言うことができます。

呼吸を電子中心に考えると「呼吸とは生命活動によって生じた余剰電子を外部に捨てる行為」だと再解釈できます。

つまり酸素呼吸を行う生き物は酸素に電子を捨てて、金属呼吸をするオネイデンシスは金属に電子を捨てているのです。

これまでオネイデンシスの電子放出は、細胞から伸びる「ピルス」と呼ばれるアース線のような長い突起によって行われていると考えられてきました。

しかし近年の高精度な電子顕微鏡の撮影により、この長い突起の正体が細胞膜の延長であり、根元部分にはシトクロムと呼ばれる鉄を含んだ電子伝達タンパク質が、はめ込まれていることが明らかになりました。

ミシュラ氏らの研究チームが注意深い測定を行った結果、電子が根元のシトクロム内部を移動すると、電子のスピン方向が一定の方向に偏ることがわかりました。

スピンは電子の自転。周ってる方向は左右でも、上下で表現する/Credit:広島大学放射光科研究センター

電子は回転していることが知られており、回転の方向によって上方向、下方向に分類されます。

またシトクロムにはキラリティーの存在が確認されており、オネイデンシスの吐きだす電子のスピンは、このシトクロムのキラリティーの働きで、細い導線部分に移動する直前に、上下どちらかに偏向されていたのです。

研究者たちの行った測定によれば、スピンの方向を揃えることで電子の移動効率が上がり、結果としてオネイデンシスの呼吸効率も上がったとのこと。

しかし、どうしてシトクロムのキラリティーが電子のスピン方向を制御できるのでしょうか?

キラリティーとは

鏡合わせの構造にあるアラニンの2種類分子。どちらの性質も同じアラニンである/Credit:wikipedia

多くの分子、特に生体分子は(生物内のアミノ酸を除き)、それぞれが互いに鏡像の2つのバージョンが存在します。

2つのバージョンは人間の手の平に似ています。右手と左手は同じような構造をしていますが、決して重ならない鏡合わせの構造になっています。

科学者はこれを「キラリティー」と呼び、右利きと左利きと呼んでいます。

両手のようなキラリリティーは、お互いの鏡像であり、反対方向を向いています。

そのため電子がタンパク質内部を通ると、そのタンパク質が右利きか左利きかによって電子が影響を受ける磁場が変化し、電子のスピン方向を片方に統一する力が働くとされます。

細い導管に電子を通し呼吸を行うためには、電子が導管に入る直前にスピンの方向を揃えて伝達効率を上げることが効果的だからです。

量子生物学の生体量子コンピューターへの応用

Credit:depositphotos

今回の結果は、生物が量子である電子のスピン方向を制御できることを示した初めての研究です。

電子を金属に吐きだすことで呼吸するオネイデンシスを研究材料に選ばなければ、このような成果は得られなかったでしょう。

今回の研究成果を利用すれば「スピントロニクス」を利用する電子デバイスの開発が可能となります。

スピントロニクスとは、電子が持つ電荷とスピン方向を工学的に利用する分野のことで、量子コンピューターにとって特に重要な技術です。

またスピントロニクスをタンパク質を用いて実現することで、生体分子由来の量子コンピューターの開発が可能になります。

もしかしたら将来の量子コンピューターは、生物のように呼吸するのかもしれませんね。

単細胞へ”逆進化”中!?「呼吸しない」多細胞動物が初めて報告される

reference: sciencealert / written by
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