島中の蝶を「メス化」させる恐怖の細菌がいた!わずか4年で9割以上がメスに
島中の蝶を「メス化」させる恐怖の細菌がいた!わずか4年で9割以上がメスに / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部
fungi

わずか4年で島中が「メス化」!宿主をメス化する細菌ボルバキアが広まる過程を世界初観測

2024.06.13 Thursday

もしも世界中の女性が女の子しか産めなくなったらどうでしょうか?

あまりに突飛なSF的アイデアにしか聞こえないかもしれませんが、実は自然界ではこれが現に起こっているのです。

石垣島に生息する「ミナミキチョウ」という蝶は、2015年頃までオスとメスの割合が1:1で均等に存在していました。

ところが福井大学らの調査で、同島のミナミキチョウはその後の4年間で93.1%がメスになっていたことが判明したのです。

これは別に島のオスたちが一斉に逃げ出したり、死んだわけではありません。

この不可思議なメス化現象は、蝶に寄生する細菌「ボルバキア」によって引き起こされたのです。

研究の詳細は2024年5月20日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。

島中がメスばかり -昆虫の細胞内に生息する細菌が宿主の野外性比を急速にメスに偏らせる過程を世界初観測- https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/163271.html
Rapid spread of a vertically transmitted symbiont induces drastic shifts in butterfly sex ratio https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.04.027

宿主をメス化させる細菌「ボルバキア」とは?

昆虫細胞内には細が生息している場合があり、その一部には宿主の生殖を内側から操れるものがいます。

その代表格として有名なのが「ボルバキア(Wolbachia)」です。

ボルバキアの電子顕微鏡画像
ボルバキアの電子顕微鏡画像 / Credit: ja.wikipedia

ボルバキアは昆虫のおよそ40%の種に寄生しているとされ、宿主が産んだ子のうちオスのみを殺す「オス殺し」や、子をすべてメスにしてしまう「メス化」の能力を持っています。

奇妙な細菌なので、初めて聞いたという人が多いかもしれませんが、人気ゲーム「メタルギアソリッド5」の中で重要な役割を持つ細菌として登場していたので、このゲームのシナリオで知ったという人もいるかもしれません。

「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」の1場面。ボルバキアがオスをメス化かせるという性質についてコード・トーカーというキャラクターが語っている。
「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」の1場面。ボルバキアがオスをメス化かせるという性質についてコード・トーカーというキャラクターが語っている。 / Credit:©Konami Digital Entertainment

メタルギアの中でも、ボルバキアは宿主をメス化する性質があると語られていましたが、なぜこの細菌は昆虫の「メス化」という能力を持つようになったのでしょうか?

これは、ボルバキアが宿主の細胞外では生きられないという点に理由があります。

細胞外で生きられないためボルバキアは基本的に感染性を持っておらず、主に宿主の親から子へと世代を越えて伝播しながら生き延びています。

ただし彼らは宿主の「母から子」へは伝播できますが、「父から子」へは伝播できません

この理由もボルバキアが細胞外では生きられないという点にあります。ここで言う細胞の中とは細胞膜より内側にある核以外の部分「細胞質」のことを指しますが、ボルバキアは細胞質を持つ卵子の中に入り込むことはできますが、細胞質を持たない精子には入り込むことができないのです。

そのため、オスに伝播したボルバキアはそれ以降の世代には伝わることができないため、ただ宿主が死ぬのを細胞内で待つのみとなります。

このような背景から、ボルバキアの一部は自らの繁栄を確実なものとするために、宿主の子を「メス化」させる能力を獲得したと考えられています。

しかし、このようなボルバキアの性質は世代が進むほど寄生された昆虫を、どんどん繁殖に不利な状況へ追いやっていくように思えます。

実際、自然界の中でボルバキアによる宿主のメス化はどれくらいの影響力を持っているのでしょうか?

実のところ、ボルバキアが昆虫をメス化させることは知られていましたが、これはすでに細菌が広まったあとの状況を見ている場合が多く、まだボルバキアの保有率が低い種の中でこの細菌がどの様に広まっていき、宿主のメス化を進めていくのかはよくわかっていませんでした。

そこで今回の研究チームは、まだボルバキアの保有率が少ない石垣島のミナミキチョウを対象にその影響について調査を行ったのです。

すると、ボルバキアの恐るべきメス化能力が発覚したのです。

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