
- 脳を含む複数の培養臓器を連結した疑似人体の作成に成功した
- 疑似人体は創薬において有用
- 完璧な培養脳を作ることは倫理的に問題になる可能性がある
近年の急速なバイオテクノロジーの発展によって、様々な臓器が試験管内で培養可能になりました。
これらの培養された臓器は「オルガノイド」と呼ばれており、人体実験の代用品として使われています。
これまでは単体での利用が主でしたが、今回アメリカの研究者によって、脳を含む複数のオルガノイドを血流によって組み合わせ、基盤の上に配置することで「疑似人体」の作成に成功しました。
この統合的な疑似人体は、肺によって酸素を取り込み、心臓を脈拍させ、すい臓でインスリンを分泌し、精巣や卵巣まで供え、脳では神経活動が観測されています。
研究者たちは、このシステムを禁じられた人体実験の代用として利用することで、主に創薬において多くの利益があると述べています。
しかしこの技術が行きつく先は、ゼロからの人体構築です。
ほぼ完ぺきな疑似人体が作られたとしたら、人間との境界は何が決めるのでしょうか?
研究はアメリカ国防総省下にある国防脅威削減局による資金援助を受け、オハイオ州立大学生物医学工学部のSkardal氏らによってまとめられ、2月26日に学術雑誌「Biofabrication」 に掲載されました。
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1758-5090/ab6d36
疑似人体の構成

これまでにもオルガノイドを用いて薬(新薬や毒)の反応を確かめる実験は行われていましたが、本来臓器は各部署が連携して働くために、単一のオルガノイドの研究では得られる知識に限界がありました。
今回の研究に用いられた複数のオルガノイドは、図のように人工的な血管で結び付けられており、臓器の維持に必要な酸素はシステム内の肺組織によって供給が可能です。
また追加の実験では心臓や血管も組み込まれ、薬や毒に対する、より有機的な実験結果を得ることが可能となりました。
各種のオルガノイドの寿命は最低でも28日以上とされており、長期的な実験も可能です。
今回の研究では、研究者たちはオルガノイドを薄くスライスしてチップの上に張り付けることで、人体の百万分の一レベルのコンパクトな疑似人体を作ることにも成功しました。
各種オルガネラをチップ化することで取り扱いが容易になり、様々な実験を容易に行うことができると考えられます。