スカイツリーは地上より10億分の4秒速く時間が流れていたことが判明

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Credit:photock
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  • 宇宙の年齢と同じ時間使っても1秒以下の誤差しか出ないという、最高精度の原子時計の開発に成功した
  • この時計を東京スカイツリーの地上階と展望台に設置したところ、両者が10億分の4秒ズレることが確認された
  • このような短い高低差で一般相対性理論の重力による時間の縮みの効果を確認したのは人類初の快挙

現在、一秒という時間を定義しているのは高性能なセシウム原子時計です。

この時計は5000万年使っても1秒しか狂わないという、世界で最高性能の時計でした。そう、これまでは…。

東京大学と理研の共同研究グループは、そんなこれまでの原子時計の精度を2桁も更新する超高性能原子時計の開発に成功しました

それは『光格子時計』と呼ばれていて、18桁の精度を持ち、100億年使っても1秒以内の誤差しか出ません。

宇宙誕生のときから使い続けても1秒程度しかズレないという、とんでもない精度です。

そして、この高性能な原子時計を使えば、基本的に宇宙スケールでしか確認できない一般相対性理論の効果が、日常のレベルで検証できるのです。

この時計を使って測定した結果、なんと東京スカイツリーの展望台は、地上より10億分の4秒時間が早く流れていることが確認できたのです。

「ちょっと待って、なんかスゴそうだけどどういうこと?」と思った人も多いことでしょう。

この意味を理解するにはまず、一般相対性理論の「重力が強いと時間が遅くなる」という現象を理解する必要があります。

ちょっとずつ、順を追って見ていきましょう。

この研究は、東京大学 大学院工学系研究科の香取秀俊 教授の研究グループから発表され、論文は国際学術誌『Nature Photonics』に3月6日付けで掲載されています。

Test of general relativity by a pair of transportable optical lattice clocks
https://www.nature.com/articles/s41566-020-0619-8#auth-1

重力が強いと時間が歪む? 一般相対性理論とは?

よく耳にするけど、よくわからない代表理論といえば一般相対性理論でしょう。

今回の研究成果の意味を伝えるために、まずはこの相対性理論の解説から初めましょう。

Credit:pixabay

相対性理論は、言わずと知れた物理学者アルベルト・アインシュタインが発表した物理理論です。

この理論のもっとも重要な主張は、光速度は何があっても世界で絶対普遍の定数であると言うことです。

光は、この世界のどこから見ても、どんな状況で見ても、絶対に秒速30万kmという速度で進んでいます

ふーん、と聞き流してしまいそうですが、これには世界を歪ませる重要な意味があります。

例えば光の速度で移動する宇宙船を考えてみましょう。その中で進行方向に向かって手鏡を掲げた場合、鏡はどうなるでしょう?

光速で移動していたら、顔から放たれる光は永遠に鏡に届かないことになってしまいます。それどころか、進行方向と逆方向を向いたら、何も見えないということになってしまいます。

これだと、光速の宇宙船に乗っている人からは光の速度が0に見えるということになります。あれれ? おかしいな? となりますね。

光がどんな状況から見ても一定速度という状態を実現するためには、光速で移動している人にも、止まっている人にも光の速度が一定に見えなければなりません。

学校で習った相対速度を無視しなければならないのです。

果たしてそんなことが可能なのでしょうか? アインシュタインはこの方法を考え、そして1つの答えを見出しました。

光の速度が移動している場合でも、止まっている場合でも、常に一定に見えるためには、時間の方を歪めてしまえばいいのです。

小学校で「はじきの法則」というものを教わったことを覚えているでしょうか? 速度は、進んだ距離を時間で割れば導けます。

は時期の法則。/Credit:とはとは.net

もし、この法則の中で、速度だけを定数にして扱おうとするなら、時間と距離だけ変えてしまえばいいのです。

私たちから見たら、時間は絶対普遍のものに思えますが、自然にとっては、時間なんかより光の速度を一定に保つことのほうがずっと優先度が高い問題です。

光の速度が変わるくらいだったら、時間と長さを歪めてしまえというわけです。

よく、光速を超えて運動することは不可能と言いますが、それもこのことが原因です。

もし光速を超えて運動してしまうと、自然は光速度を保つために、そいつの周りに流れる時間を巻き戻してしまうのです。光速を超えたらタイムマシンができる、というのもこの原理によるものです。

つまりは、光の速度を一定に保つためなら、時間も空間も歪めていいというのがアインシュタインの特殊相対性理論なのです。

そういえば、相対性理論には特殊相対性理論と一般相対性理論があったよね? どう違うの? と言う人もいるかもしれません。今回の時計の話も一般相対性理論の効果だと言われています。

特殊というのは、今の問題を、物体が等速直線運動した場合のみに限定して考えているためです。

現実とは異なる特殊な条件を加えて、物事を単純化して考えた場合、それを特殊理論と呼びます。

物理の問題で「ただし、摩擦は考えないものとする」なんて但し書きを見た覚えがあると思いますが、こういう現実と異なる特殊な条件を付与して考える問題がいわゆる特殊理論です。

なので、こういう特殊な条件を用いないで、現実にそのまま当てはめても成立するようにしようというのが「一般理論」になります。

物理問題の例でいうなら、「摩擦も考慮して答えなさい」というのが一般理論です。

お、難しそう、と言う感じがしますね。このため、特殊相対性理論に比べて、一般相対性理論の方が、内容はぐっと難しいものになります。

一直線の等速運動で考えていた特殊相対性理論を、私たちが暮らす4次元時空(3次元空間+1次元時間)に適用したのが一般相対性理論なのです。

確かに難しいですが、単純に行ってしまえば、速度の問題で伸び縮みしていた時間が、重力でも伸び縮みするよ、というのが一般相対性理論の内容です。

では重力とは何でしょう?

アインシュタインはこれを時空間の歪みであると説明しました。

世界をゴムシートで出来た2次元平面と考えた場合、ここにボーリングの玉を乗せると大きくたわんで、周りの小さなビー玉などを吸い寄せます。

このシートのたわみが重力による時空の歪みに相当するものです。

では、このたわんだゴムシートの表面を光が通った場合どうなるでしょう?

ピンと張った状態のときと比べて、たわんだ状態では光が通る距離は長くなってしまいます

Credit:depositphotos,ナゾロジー編集部

しかし、この場合でも2つの光は同じ速度にならなければなりません。そのため、重力で歪んだ空間では、光の速度を保つために、時間の流れが遅くなってしまうのです。

これが、簡単に行った場合の一般相対性理論です。

高度が違うと重力が異なる

地球上の重力は、地球の質量が生んでいるものなので、地球から離れるほど重力は弱くなります

ということは、一般相対性理論に従えば高度が上がるほど時間の流れは早くなります

実際、スペースシャトルに積んでいた時計は、戻ってくると地球の時計より早く進んでいることが確認されています。

他にも衛星に積まれている時計は地上より早く進みます。

しかし、従来の原子時計の精度では、高低差が1万km以上なければ、一般相対性理論による時間のズレを検出できませんでした。

ところが、今回の主役となる「光格子時計」は、東京スカイツリーの地上と展望台というたった450メートルという高低差で、一般相対性理論による時間のズレを検出できたのです。

驚異の光格子時計

原子時計はみな、原子や荷電粒子が放つ電磁波の周波数を使って時間を測ります。

時計は振り子が左右に揺れてチクタクと時間を刻みますが、この振り子の振動数を原子の振動数に置き換えたものが原子時計です。

周波数と振動数は言い方が違うだけで同じものです。原子の振動の方が、時計の振り子などより遥かに細かいので、古時計なんかより、もっとずっと細かい時間を測ることができるのです。

このセシウム原子時計の精度を上げる方法として、これまで考えられていたのは、絶対零度近くまで荷電粒子を冷やして捕まえ、正確な振動数を測定しようというものです。

ただ、量子レベルのこうした測定には不確かさがつきまとうため、正確な振動数を得るために100万回測定を繰り返すというやり方をします。これはイオントラップ法と呼ばれています。

この場合18桁精度の時間測定に10日間もかかってしまいます。

香取教授たちは、そんな筋道の立てられた方法を改良していくより、もっと飛躍した方法を考えました。それは100万個の原子を集めて1回だけ計測すればいいじゃないか、というものでした。

このために、光格子時計は、魔法波長と名付けられた特別な波長のレーザーを使って卵のパックのような原子の入れ物を作り出し、そこに絶対零度近くまで冷やしたストロンチウム原子を収めていきます。

この原子を全て同時に計測するのです。

複数本のレーザーの干渉によって、卵のパックのような原子の容れ物(=光格子)を作り、そこに原子を収めていきます。/Credit:東京大学,香取秀俊(2015)

この研究は、最初1000個の原子を捕まえて測定するところから始まりましたが、それが徐々に数を増やして精度をあげていき、今回の成果に繋がったのです。

実はムラのある重力

重力の影響とか、時間とかそんなに細かく測る必要なんてあるの? と一般人目線では考えてしまいますが、実は重力は日本の中だけでもかなりのムラがあります。

鉱床のような密度の高い物体が地下にあれば、地上の重力は増加します。また、活断層のように不連続な地層では、その両側で密度が変わるため、やはり地上の重力に差が生まれます。

こうした作用によって、例えば沖縄で1kgだった金が、北海道に持っていくと1g重くなるということも起こります。

各地の重力値。Credit:国土地理院,理科年表より

このため、重力の微細な変化を測定できれば、地下資源などを地上から推測できたり、マグマの活動の変化を感知できたりするようになるのです。

他にも現代の技術は、実は一般相対性理論の時間の伸びに頼って機能しています。

例えばみんなよく利用しているスマホの位置情報や、カーナビなどのGPS機能は、GPS衛星が地上と他の衛星との間で生じる一般相対性理論による時間のズレを計算することで、対象の地上の位置を導き出しています。

Credit:日本学術会議公開シンポジウム,香取秀俊(2018)

思わぬところで重力と時間のズレは役に立っていたりするのです。

私たちがもう生活からは切り離せないようなところにも、こうした技術が役立っているとなると、そんな細かく時間を測ってどうするの? とは言えなくなりますね。

この成果によって、今後は1秒の定義さえ変わるかもしれません。

1秒ってなんで「1秒」なの?

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