首無しファージ!? 杭を射出して狙った細菌だけを物理的に殺す抗生物質が開発間近

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緑膿菌が分泌する奇妙な物体は、首のないファージのような外見をしている/Credit:CNSI at UCLA.youtube
point
  • 首無しファージのような形状のバクテリオシンは細菌を物理的に破壊する
  • バクテリオシンの認識部位を書き換えることで病原菌だけを認識する抗生物質ができる
  • 無差別な殺戮をなくせば細菌の耐性獲得スピードは緩やかになる

ファージウイルスのように狙った細菌だけに取りつき、杭を打ち込んで物理的に相手を破壊できる。そんな夢のような抗生物質の作成がはじまりました。

この抗生物質は、緑膿菌がライバルの細菌を殺すために分泌する、ある「奇妙な物体」を参考にして開発されたものです。

この「奇妙な物体」はファージウイルスの頭部を切り落としたような構造をしており、ライバルの細菌の表面に取りついて、内部に仕込んでいた杭を射出して破壊します。

今回アメリカ、カリフォルニア大学の研究者たちが目をつけたのが、この「首無しファージ」の標的認識機能です。

標的認識を書き換えられれば、人間の害になる薬剤耐性菌などをピンポイントで攻撃できるからです。

あらゆる抗生物質に耐性を示す超耐性菌(スーパーバグ)であっても、生物である以上物理的に穴をあけられたら生きてはいられません。

では、この首無しファージのような奇妙な物体の正体はいったい何なのでしょうか?

首無しファージ(バクテリオシン)は大事なものをもっていない

ファージには遺伝子がつまった頭部があるが、バクテリオシンは自分の遺伝子をもっていない/Credit:wikipedia.CNSI at UCLA.youtube

この奇妙な「首なしファージ」の正体は、バクテリオシンと呼ばれる複数のタンパク質部品から構成される、天然のナノマシーンです。

ファージウイルスとバクテリオシンには不思議な共通点があり、共に足の部分で標的とする細菌を認識し、鞘の部分から杭を打ち込みます。

ファージウイルスはその杭の内部を通して、頭部に蓄えた遺伝情報を細菌に流し込み、細胞の自己複製機能を乗っ取って、自分(ウイルス)の体を複製させます。

一方、バクテリオシンには遺伝情報(核酸)がつまった頭部がなく、あるのは標的を認識する足のセンサーと、武器である杭を駆動させる機械的な仕組みだけです。

これはバクテリオシンが自己の増殖を目的としておらず、単純に相手を殺すキラーナノマシーンだからです。

ですが、なぜ緑膿菌がキラーナノマシーンを分泌するようになったかはまだわかりません。

近年における進化生物学の常識としては、生物が極めて奇妙な能力を獲得するときは、ウイルスの遺伝子を取り込んでいるケースがほとんどです。

バクテリオシンの構造や部品の稼働原理がファージと非常に似ていたため、緑膿菌が自身に感染したウイルスの遺伝情報を取り込んで、自分にとって有益な攻撃兵器に作り替えたのかもしれませんが、現時点ではわかっていません。

杭が射出される仕組み

バクテリオシンが細菌の細胞膜に穴を開ける様子。6本の足で標的を認識し、杭を射出する/Credit:CNSI at UCLA.youtube

バクテリオシンは、6本の足がそれぞれ独立して標的を認識しています。

6本ある足のうち3本の足が結合に成功すると、バクテリオシンは結合した相手が自分の獲物だと認識します。標的の認識が終わると、バクテリオシンは外側の鞘をギュッと下方向に向けて収縮させます。鞘を収縮させるためのエネルギーは、鞘の頂上部分に高エネルギー結合として蓄積されているとのこと。

鞘が収縮すると、内部の杭は押し出されるようにして、標的の細胞に大きな穴を開けます。穴をあけられた細菌は細胞膜の電位や、細胞の内外の濃度差を保てず、死んでいきます。

今回の研究では、バクテリオシンの詳細なタンパク質構造が調べられており、上の動画のようにバクテリオシンの動く仕組み(鞘の収縮や杭が回転しながら入っていく様子など)を解き明かしました。

人工のバクテリオシンを制作する

遺伝子組み換えで変異体は酸性環境に耐性を得た/Credit:nature

バクテリオシンは緑膿菌のDNAに設計情報が記されています。

そのためバクテリオシンを標的捕捉型の抗生物質に改造するには、緑膿菌の遺伝子を書き換え、緑膿菌を抗生物質の生体工場にする必要があります。

ですが、簡単ではありません。

そこで研究者は複雑な書き換えを行う前に、簡単な実験を繰り返して、基礎的なノウハウを蓄積することにしました。

最初の一歩として研究者がまず目をつけたのは、杭を発射するトリガー機構の制御実験です。

バクテリオシンが杭を打ち出すトリガー機能は酸性に敏感であり、pH3.4より強い酸性環境では、勝手にトリガーが作動して、細菌に取りつく前に杭を発射してしまいます。

そこで研究者はトリガーを構成するドメイン(区域)の遺伝子を書き換え、アミノ酸のヒスチジンをフェニルアラニンに置き換えた変異体を作成しました。

結果、バクテリオシンは酸性に対する耐性を獲得し、強い酸性下でも細菌を攻撃できるようになりました。

今後は杭を発射を制御するトリガーだけでなく、足の標的認識機能も対象にして、バクテリオシンを本格的な抗生物質に変えていくとのこと。

この試みが成功すれば、各種の病原菌だけを特異的に認識して殺すことができるようになります。

なぜ標的だけを殺すことが重要なのか?

アジアの川も23%以上が抗生物質まみれになっている。抗生物質まみれになった川では、特に意味もなく細菌の無差別殺戮が起きている/Credit:The Guardian

これまでの抗生物質は病原菌だけでなく、人間にとって有用な善玉菌や、全く無関係な菌も含めた無差別な殺傷を行います。

また便や尿などにより抗生物質が環境に流出することで、無差別殺戮は川や海といった地球規模で引き起こされるようになりました。

その結果が、超耐性菌(スーパーバグ)の出現です。

細菌は自分の獲得した耐性を他の種の細菌とシェアする能力があり、地球各地で殺戮から生き延びた細菌が互いの耐性を交換するようになったからです。

ですが、バクテリオシンによる抗生物質は狙った細菌だけを破壊ができるために、余計な犠牲は出しません。

これは「人類」 VS 「全微生物」の対決構図を「人類」 VS 「病原菌」に縮小できることを意味します。

そして余計な犠牲がなければ、細菌たちの耐性獲得は十分なほど緩やかになるはずです。

この研究は2020年4月14日付で科学誌「nature」に掲載されました。

「生物のようなウイルス」と「ウイルスのような生物」が発見され、生物と非生物の境界がゆらぐ

reference: phys. nature/ written by katsu
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