努力は非達成者側から達成者側へ脳構造を変化させる
では、人間の「達成する力」は一生変わらないのでしょうか?
今回の研究ではさらに踏み込み、非達成者が達成者になれるコーチング戦略の開発も並行して行われました。
コーチング戦略の鍵となった要素は、サブゴール(小さなゴール)の設定です。
達成者側の脳構造を持つ人間は、一つの目標を大きな一塊として乗り越えられます。しかし非達成者側の脳構造を持つ人間でも、目標を細分化することで、最終的には達成者側の脳構造の人間と同じスキルレベルまで到達できることが明らかにされました。
上の図の左の円グラフでは、サブゴールを用いない場合、45%の人間が非達成であることを意味しています。
しかしサブゴールを設定することで、右の円グラフが示すように、非達成者の割合を7.3%まで減らすことができました。
次に研究者は、達成者側と非達成者側の脳構造が後天的に変化可能かどうかを調べました。
その結果、上のグラフのようにサブゴールを設定することで、非達成者側の人間の脳構造(灰白質の容積と白質の神経の方向性の強さ)が変化。達成者側の人間の脳構造に近づいていくことが判明したのです。
この脳構造変化の身近な例では、学校の勉強を頑張る重要性があげられます。
学校の勉強は退屈で就職後には役立たないと考える人もいますが、自分で課題を設定してコツコツ成し遂げる訓練をすることで、脳構造を達成者側に変化させ、「やり抜く力」が身につく可能性が高いからです。
このように、資質と努力は複雑に絡み合いながら脳の構造を変えていきます。
将来、能力の定量化技術が発展すれば、煩雑なテストやコストの高い面接を省略して、求める人材を脳構造から発見できるようになるかもしれませんね。
この研究内容は日本の東京大学の細田千尋氏らによってまとめられ、4月28日に学術雑誌「nature / COMMUNICATIONS BIOLOGY」に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s42003-020-0930-4