固体・液体・気体に続く物質の”第5の状態”を観測。 絶対零度で起こる量子力学の世界

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Credit:Bose-Einstein condensation,vulgarisation
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  • 物質を絶対零度近くまで冷却すると、固体より下の状態「ボース=アインシュタイン凝集体」になる
  • これは重力の影響で簡単に崩壊してしまうため、地上での実験は困難だった
  • 新たな研究は宇宙空間で、物質第5の相を1秒以上維持して観測することに成功した

物質の状態には、固体・液体・気体という三態があるというのは小学校の理科で教わります。

さらに、気体の上にはプラズマと呼ばれる状態があります。

では、固体の下はなんでしょうか? これは絶対零度近くまで物質を冷却した場合に作られる状態で、ボース=アインシュタイン凝集(以下BEC)と呼ばれています

この状態になると、なんと原子は実態でありながら物質波としても機能し、いわゆる量子(ボース粒子)の様な性質を得るのです

このBECは非常に壊れやすい状態で、外界との僅かな相互作用で凝結限界を超えて崩れてしまいます。特に重力下では、この状態を維持することが非常に困難であまり研究は進んでいませんでした。

これを新しい研究は世界で初めて宇宙で行うことで、長時間観測することに成功したと報告しています。

物質の三態

物質は温度によって5つの状態を取ります。これは相とも呼びますが、ここではわかりやすいように状態という言葉で統一します。

もっとも基本となるのは「固体・液体・気体」という三態で、学校の理科でも教わる内容です。

まずはここから見ていきましょう。

物質の三態。/Credit:depositphotos

温度とは物質を構成する原子の持つ運動エネルギーのことです。温度が高いと熱くなるのは、高い運動エネルギーを持った原子がバシバシぶつかってエネルギーを渡してくるためです。

逆に冷たいのは、運動エネルギーの低い原子が相手のエネルギーを奪って動きを封じてくるためです。

そのため、固体は物質の運動エネルギーが少ないために動くのをやめて固まっている状態です。なので冷やすほど固まる物質は多くなります。

気体は物質の運動エネルギーが高いために、バラバラに分かれて好き勝手に動き回っている状態です。

液体はその中間で、気体の様にバラバラにはなっていないけれど、固体のように固まって動きを止めているわけでもない、という状態になるのです。

しかし、物質の状態にはさらにこの上と下があります。つまりもっとずっと運動エネルギーが高い状態と、極限まで運動エネルギーが低い状態です。

物質の第4の状態

物質の第4の状態は、気体よりも高い運動エネルギーを得たとき起きるものでプラズマと呼ばれています。

気体は物質を作る分子が、バラバラになって自由に飛び回っている状態ですが、さらに運動エネルギーが高くなると、原子を構成する電子が原子核から離れて飛び回ってしまします

通常の物質は、正電荷の原子核と、負電荷の電子がくっつくことで電気的に中性の状態を維持していますが、これがバラバラになってしまうので、プラズマは荷電粒子の嵐になってしまいます。

プラズマの状態。/Credit:京都大学

代表的なプラズマの例が太陽風です。

太陽のような高エネルギーの天体を取り巻く大気は、その高熱によってプラズマ状態になっていて、これが地球へも飛んでくるので、太陽風で電磁障害などの危険が生まれるのです。

また太陽風に限らず、宇宙に存在するガスなどの多くはプラズマの状態になっています。

物質の第5の状態

そして物質第5の状態が今回の研究のメインにもなっているボース=アインシュタイン凝集です。

これはアルベルト・アインシュタインと、インドの物理学者サティエンドラ・ボースによって1世紀前に存在が予想された状態で、原子が絶対零度(0ケルビン・-273.15℃)近くまで冷却されたときに形成されます

ボース=アインシュタイン凝集を予想した、アルベルト・アインシュタイン(左)とサティエンドラ・ボース(右)。/Credit:Wkipedia

絶対零度は物理学的にこの世界で物質が取りうる最低エネルギー状態で、全て物質の動きは理論上停止します。

しかし、ここまで冷却されたとき、原子は量子的性質を持つ単一の実体へと変化して、各粒子は物質波として振る舞い出します

これは重力によって支配される巨視的世界と、量子力学が支配する微視的な世界の境界をまたいだ状態です。

絶対零度まで冷却されたとき起きるボース=アインシュタイン凝集のイメージ動画。/Credit:Bose-Einstein condensation, vulgarisation

BECは非常に壊れやすく、状態を安定させることが困難です。それは必要な低温があまりに低すぎることもありますが、観測に必要な磁場に、重力が干渉してしまうためです。

そこでNASAの科学チームは、国際宇宙ステーションでこのBEC実験を世界で初めて実行することにしました

微小重力下では、重量にあらがって原子を支える必要がないので、はるかに弱い力で原子を閉じ込めることができます。

こうして宇宙での実験によって、地上ではミリ秒単位でしか維持できなかったBECを1秒以上維持することが可能になったのです。

研究チームのトンプソン教授は、「もっとも重要なのは、原子が完全に不確定な状態で浮いているのを観察できることだ」と述べています。

まだまだ、物質第5の状態は謎が多く、研究はこれから進んでいくことになるでしょうが、BECは宇宙を加速膨張させているという未知の暗黒エネルギーの解明についても、重要な手がかりを握っていると考えられています。

ここからさらなる宇宙の秘密が暴かれるかも知れません。

この研究は、カリフォルニア工科大学とNASAジェット推進研究所の研究者David C. Aveline氏を筆頭とするNASAの科学チームにより発表され、論文は6月11日付けで科学雑誌『nature』に掲載されています。

Observation of Bose–Einstein condensates in an Earth-orbiting research lab
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2346-1

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【編集注 2020.06.16 08:33】
記事内容に一部誤字があったため、修正して再送しております。
reference: phys/ written by KAIN
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