イカのタンパク質から傷を1秒で”自己修復する新素材”が開発される。

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イカの歯の持つ自己修復特性を強化した新素材が開発された/Credit:deposotphotos
point
  • イカの環歯は自己修復能力を持っている
  • イカの環歯の遺伝子を書き換え改良することで自己修復能力を強化した新素材を作った
  • 新素材は損傷をわずか1秒で修復する能力があった

近年の急速な合成生物学の進歩によって、生命の設計図ともいわれる遺伝子を、新素材のレシピとして使うことを可能になっています。

生物の能力を新素材に取り込むことで、既存の非生物学的な素材には獲得不可能であった特性を得ることができるのです。

中でも自己修復能力は非常に生物的な能力であり、幅広い分野で活躍すると期待されています。

そこで今回、合成生物学の研究者たちは、イカの環歯(吸盤の中にあるリング状の歯)の再生能力を改良し、損傷を1秒以内に自己修復する柔らかい新素材を開発しました。

これまで多くの自己修復能力を持った素材が開発されてきましたが、どの素材も修復には数時間から数日を必要とし、多くは修復後の強度が低下します。

しかし今回、イカの環歯を元に開発された新素材は、損傷を瞬く間に修復するだけでなく、修復後も以前と変わらず100%の強度を維持し続けることがわかりました。

生物の特性を持つ新素材は、私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか?

イカの環歯の自己再生能力を利用

タンパク質のシートに開いた損傷(穴)は圧力や熱を与えると一瞬で修復される/Credit:Nature Materials

私たちが日々使っているマスクは、繰り返しの着用ですぐに繊維がボロボロになり、小さな穴からウイルスの侵入を許してしまいます。

またソフトロボットのアクチュエータ(人工筋肉)も繰り返しの動作で内部繊維が劣化し、切れやすくなってしまいます。

これら柔らかな素材の持つ脆弱さを解決するには、素材自体が生物の体のように自己修復機能を持つ必要がありました。

そこでドイツの研究者は「イカの環歯」に着目したのです。

イカの環歯は、個々のイカ吸盤の中心部に存在する環状の硬い構造物であり、イカが獲物の体を掴むために使われます。

このイカの環歯は、私たち人間の歯と違って自己修復能力があることが知られており、ヒビが入った場合でも即座に再接着し、強度を回復させることが分かっています。

このイカの環歯の回復力の秘密は、イカの遺伝子が作る特殊なタンパク質に由来します。

損傷を受けても柔らかな部分がすぐに結合して自己修復される/Credit:Nature Materials

特殊なタンパク質は歯としての硬さを維持する結晶状の構造の他に、再結合力に富んだ柔らかな構造も持ち合わせていました。

そこで研究者は、イカの遺伝子を組み替えることで、より優れた自己修復能力を持つ、人工素材を作れないかと考えました。

近年の急速な合成生物学の進歩は、塩基配列の変更を通して、イカの環歯の自己再生能力を引き継いだ、より優れた新素材の設計を可能にしています。

研究者はイカの遺伝子を様々なパターンに書き換え、得られた改良タンパク質の性能をチェックしていきました。

結果、ある特定の組み換え配列が、驚異的な自己再生能力をもった新素材の設計図になることが判明したのです。

その新素材は、切断や貫通といった損傷を1秒以内に自己修復し、修復後の強度も損傷前と全く同じレベルまで回復しました。

これまで開発されたポリマーベースの自己修復素材の多くは、修復に数時間から数日を要していただけでなく、修復のたびに損傷個所の強度が低下していました。

しかし自己回復素材に改良した生物の体(イカの環歯)を使ったことで、非生物学的素材が持ちえない圧倒的な性能を得られたのです。

新素材は優れた強度をもっている

反復運動による耐久実験/Credit:Nature Materials

次に研究者は得られた改良タンパク質の性能の強度を測定に取り掛かりました。

ロボットの人工筋肉材料として使う場合には、柔らかさだけでなく強靭さも必要になるからです。

そこで研究者はイカの環歯を元にした新素材を上の図のような反復運動を繰り返す装置につなげ、耐久力をテストしました。

これまで開発されたどの材料も、反復運動を繰り返すうちに小さな亀裂を生じさせ、最終的には重さに耐えきれずにちぎれてしまいます。

しかしイカの環歯由来の新素材は違いました。

新素材も継続的な動きにより構造に亀裂が入ることまでは同じですが、途中で水分と熱を与えることにより即座に自動修復が成され、元の強度を完全に取り戻したのです。

また瞬間的な引っ張りに対する耐性も高く、最大で自重の3000倍の重さを引き上げることができました。

生物の体を部品にする

合成生物学の進歩により生物の特性を持つ材料を作られるようになった/Credit:Nature Materials

今回の研究により、自然に存在する生物の体は、新素材の宝庫である可能性が示唆されました。

様々な生物がつくる多様な構造を、遺伝学的な手法で改良することにより、これまでの非生物学的な素材では実現不可能であった特性を材料に取り込むことができるかもしれないのです。

またこれら改良素材は、生物の体を建材や部品として利用するために、廃棄する場合も環境に悪影響が少ないでしょう。

今回の研究で作られたイカの環歯を元にした新素材も、構成材料が全てタンパク質であるために、酢につけるだけで簡単に分解できるとのこと。

将来的には、全身を自己修復素材で作ることにより、どんな損傷からも即座に回復する無敵ロボットも作成可能になると考えられます。

研究内容は米国陸軍戦闘能力開発司令部の一部門であるアメリカ陸軍将来コマンドの支援の元、マックスプランク研究所のAbdon Pena-Francesch氏らによってまとめられ、7月27日に学術雑誌「Nature Materials」に掲載されました。

Biosynthetic self-healing materials for soft machines
https://www.nature.com/articles/s41563-020-0736-2
【編集注 2020.07.29 10:10】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。
reference: sciencedaily / written by katsu

食べるなキケン!絶対に「イカの精子」を食べてはいけない理由とは

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