エイズを「自然治癒」させた超免疫持ちの人間が発見される

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細胞(青)の上に見える緑の粒子がエイズウイルス。特定の形質を持つ人間はエイズ遺伝子を活性の低い遺伝子砂漠に封じ込めることができる/Credit:CDC
reference: sciencenews

「不治の病」というイメージのあるエイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)を完全に駆逐できる「超免疫」ともいえる体質を持った人間の存在が明らかになりました。

8月26日に学術雑誌「Nature」に掲載された研究によれば、この奇跡の患者はエイズを完全に自力で自然治癒させていたとのこと。

治癒後、患者の体にはまともに動くエイズ遺伝子は存在せず、わずかに残った遺伝的痕跡すらも消えかけていたのです。

エイズはヒトの免疫を低下させますが、この奇跡の患者は、エイズウイルス(HIV:ヒト免疫不全ウイルス)の「人の免疫を低下させる機能」すら、超免疫で撃破していたことになります。

今回の研究ではこの世界初のケースを報告すると共に、奇跡のメカニズムの解明も試みられました。

いったいどんな仕組みがエイズウイルスを完封していたのでしょうか?

をコントロールする驚異の「エリートコントローラー」

に対する耐性は個人によりまちまちだが、一部の人はになってもずっと健康でいられる/Credit:depositphotos

コロナウイルスと同じように、ウイルスに感染した人間の症状は様々です。

運悪く数年で発症して亡くなってしまう人もいれば、10年・20年と力強く免疫能力を保ったまま暮らす人もいます。

これらに対する生存率の違いは、抗ウイルス薬の服用の有無だけでは説明がつかず、バックグラウンドに存在する、個人の免疫能力の差のためだと考えられています。

そしてこれらの病状をよくコントロールしている人々(感染者のうち0.5%)は、エリートコントローラー(以下、EC)と呼ばれるようになっていました。

そこで今回、アメリカ、ラゴン研究所の研究者たちはECと一般の患者で何が違うか調べることにしました。

ECの秘密を解き明かすことで、新たな治療薬の開発に繋がる可能性もあるからです。

エリートコントローラーはただの幸運の持ち主ではない

に耐性がある人は感染してもウイルスがほとんど生産されない/Credit:Nature

秘密を探るにあたって、研究者たちは64人のECと41人の通常の感染者の協力を仰ぎ、彼らから細胞の供与を受けました。

は1本鎖RNAの遺伝子を持つレトロウイルスであり、感染すると自身の遺伝子をDNAに変換して人間の遺伝子の中に組み込み、継続的に自己複製を行うようになります。

一方、現在流行しているコロナウイルスは細胞に感染しても、人間の遺伝子の中に自分の遺伝子を入り込ませることはありません。

研究者たちは最初、ECに感染したは一種の「弱毒化」したものだと考えていました。

ですが、結果は予想とは異なりました。

驚くべきことに、ECの遺伝子内部には、完全な形の遺伝子が一般患者と同じように挿入されていたのです。

しかし1つ大きな違いがありました。

ECの場合、ウイルス遺伝子が挿入された場所の多くが「遺伝子砂漠(ヘテロクロマチン)」と呼ばれるほとんど活動がない領域だったのです。

ウイルスの自己複製は人間の細胞の遺伝活性に依存しているため、不活発な地域に差し込まれた遺伝子もまた、活動することができなかったのです。

ではECは幸運がもたらした産物でしかないのでしょうか?

その疑問は、ある女性患者「エリートコントローラー2(以下、EC2)」の出現によって否定されました。

エリートの中のエリートは病状コントロールの必要のない自然治癒者だった

ある患者EC2はの遺伝子を粉砕して自然治癒させていた/Credit:depositphotos

ECの遺伝分析を続ける中、研究者たちは驚きの事実に遭遇します。

彼女は24年に渡り治療薬を飲まずに健康体を維持しており、彼女の細胞には、まともな配列を維持したウイルスの遺伝子が存在していなかったことが判明したのです。

ECの体に感染していたの遺伝子は欠損し、不完全な残骸のような姿になり果てていました。

ウイルスと言えども、遺伝子がズタズタの状態では自己複製はできません。

このことはつまり、EC2がから自然治癒を成し遂げていたことを意味します。

EC2の体内では、まともなの遺伝子を組み込まれていた感染細胞が、その超免疫によって全て排除されていたのです。

このことから研究者は、EC2ほどではないにしても、ECたちの体内でも類似の反応が起き、活発な遺伝子区域に遺伝子が入り込んでしまった細胞もまた強い免疫により排除されたのだろうと予測しました。

ECの体内で、遺伝子が不活発な遺伝子区域にだけみられたのは、活発な遺伝子区域に遺伝子を持っていた感染細胞が強い免疫によって排除されていた結果だというのです。

自然治癒者の力を全ての患者に届ける

EC2は女性だという/Credit:depositphotos

今回の研究により、免疫機能によって遺伝子の活動を封じ込めたり、遺伝子そのものを使い物にならないほどまで破壊できることがわかりました。

鍵となるのは、の遺伝子を取り込んだ感染細胞を、いかに効率よく排除できるかになります。

もし自然治癒者「EC2」の持つ超免疫を治療薬に組み込むことができれば、感染細胞を根絶し、の遺伝子を体内から消し去ることも可能になります。

そうなれば、パートナーと避妊具なしの性行為を行い、子供を作ることも可能になるでしょう。

世界に蔓延るが、たった一人の超免疫によって駆逐される日は近いのかもしれませんね。

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