急性アルコール中毒の新治療法は「過呼吸」!? 肺から血中のアルコールを通常の3倍の速さで排出できるとの研究結果

楽しい飲み会も無茶な飲み方をすれば命の危険が伴う。
楽しい飲み会も無茶な飲み方をすれば命の危険が伴う。 / Credit:depositphotos

reference: UHN

最近ではだいぶ数は減った印象もありますが、それでも一気飲みなど無茶な飲み方をして「急性アルコール中毒」により倒れる人のニュースが報じられています。

急性アルコール中毒は、血中のアルコール濃度が急激に上昇することにより起こる症状。現在では透析を行う以外治療法がありません。

しかし、11月12日にオープンアクセスジャーナル『Scientific Reports』に発表された新しい研究は、過呼吸によって血中のアルコールを肝臓のみで処理する場合の3倍近い速度で体外へ排出できると報告しています

飲み会の多いシーズンになると毎年のように耳にする急性アルコール中毒による死亡者ですが、この成果がそんな被害者を減らしてくれるかもしれません。

>参照元はこちら(英文)

お酒が原因で死に至る 危険な「急性アルコール中毒」

無茶な飲酒は非常に危険なのでやめましょう。
無茶な飲酒は非常に危険なのでやめましょう。 / Credit:depositphotos

急性アルコール中毒は、アルコール飲料に含まれるエタノールを短時間で過剰に摂取することによって引き起こされる中毒症状です。(エタノールが原因ですが、この記事ではアルコールと統一して表現します)

血中のアルコール濃度が上昇すると、が麻痺してしまい、意識の喪失や最悪死亡に至ります。世界では年間300万人が無茶な飲酒によって死亡していると言われています。

通常、アルコールを分解してくれるのは肝臓の働きによるもので、実に血中の90%近くをクリアにしてくれます。

この分解速度を上げる方法はなく、肝臓が代謝しきれない量のアルコールを摂取してしまった場合、現在施術することができる治療法は透析だけです。

打てる手段が少ないため、急性アルコール中毒は恐ろしいのです。

しかし、ここで新しい治療の選択肢が発見されました。それは肝臓の代わりに、の機能を利用するというものです。

過呼吸でアルコールを排出する

北米最大の健康研究組織ユニバーシティ・ヘルス・ネットワーク(略称: UHN)の研究チームが発表したのは、過呼吸になることでアルコールを体外へ排出するという方法です。

呼吸をすると、血中に含まれる化合物も一緒に体外へ排出されます。飲酒運転の判定に呼気検査が利用されますが、血中のアルコールは呼吸によっても体外へ排出されているのです。

そこで研究チームが思いついたのが、「ひょっとしたら過呼吸になれば、体内のアルコールを効率よく排出できるんじゃないか?」というアイディア。

ただ過呼吸も危険な症状であることに変わりありません。過呼吸が続くと手足や唇の痺れが生じ、1~2分で頭が軽くなってきて意識を失ってしまいます。被験者を単純に過呼吸にするわけにはいきません。

そこで利用されたのが、研究チームの1人トロント総合病院研究所のジョセフ・フィッシャー博士が以前開発した、一酸化炭素中毒を治療するスーツケースサイズの医療器具「クリアメイト(英: ClearMate)」でした。

安全に過呼吸状態へ導く医療器具「ClearMate」を使用している様子。
安全に過呼吸状態へ導く医療器具「ClearMate」を使用している様子。 / Credit:UHN

過呼吸の症状は激しい呼吸のせいで、血中の酸素濃度が上昇し二酸化炭素不足になることで起こります。

血液は普段中性ですが、緊張や不安から呼吸が激しくなると血中の二酸化炭素濃度が低下してアルカリ性に傾きます。すると身体は血液を中性に戻すために二酸化炭素の排出を抑えようと呼吸を抑制しようと働きます。

これが本人にはとても息苦しい状態に感じられるため、余計激しく呼吸をしてしまい悪循環が生じていくのです。身体に痺れが発生するのは、血液がアルカリ性に傾くと血管が収縮してしまうためです。

「クリアメイト」は過呼吸を利用して、一酸化炭素中毒を解消する機械。これは血中の二酸化炭素不足が長時間続いた場合、安全に体内へ必要量の二酸化炭素を取り入れることができます。

もともとは一酸化炭素中毒の治療器具だった「クリアメイト」は、今回は安全に過呼吸を引き起こす道具として利用されたのです。

肝臓だけに頼るより3倍速くアルコールを体内から除去できる

安全に過呼吸状態を作り出す方法を手に入れた研究チームは、5人の成人を使って実験を試みました。

ウォッカベースの飲料1杯を飲んでもらった被験者を過呼吸状態にし、血中アルコールの排出量を観測したのです。

すると、通常肝臓のみで代謝した場合に比べて、血中アルコール排出率は3倍以上に上昇していました。

これはまだ実験室で行われた非常にサンプルサイズの小さい概念実証(新しいアイデアを試す実験)に過ぎませんでしたが、非常に明確な結果がでました。

これまでは肝臓のワンオペ状態だった血中アルコールの除去に、肺が有効なサポートをしてくれると確認されたのです。

「クリアメイト」は非常にローテクな器具で、コンピューターやフィルターも必要ないため、世界中のどこでも簡単に製造できるといいます。

こんな簡単な方法でアルコールの除去速度を大幅に改善できるというのは驚きの一言で、フィッシャー博士も「なぜ何十年もの間、この方法が試されなかったのか本当に不思議です」と語っています。

チームは今後、より広くこのプロセスをテストするため、臨床試験を準備中だとのこと。

急性アルコール中毒は、自分の飲酒量を把握できていない若い世代に特に多くの被害が出ている症状です。

アルコール・ハラスメントという言葉も定着し、昨今は無理に飲酒を強要したり、無茶な飲み方をする場面は減った印象もありますが、東京消防庁のデータでは、令和になっても急性アルコール中毒で救急搬送される人の数は減っていません。

過去5年間の急性アルコール中毒患の救急搬送の推移。
過去5年間の急性アルコール中毒患の救急搬送の推移。 / Credit:東京消防庁

お酒は少量でも判断力の低下や協調性の低下を招くことが、今回の論文でも指摘されていて、調子に乗って飲みすぎてしまう人根本的に減らすことは難しいのかもしれません。

過度な飲酒を自重することが最大の予防ではありますが、強要により急性アルコール中毒で死亡するという不幸な事故も起こっています。「クリアメイト」が各居酒屋に常備されるようになれば、急性アルコール中毒の被害は多少は緩和されるのではないでしょうか。

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