海底ワームの強固な牙の生成メカニズムを解明
海底ワームの強固な牙の生成メカニズムを解明 / Credit: Herbert Waite/CC BY-SA
biology

生物にとって有毒な「銅製のキバ」を持つ海底ワーム その生成メカニズムを解明

2022.04.29 Friday

We Finally Know How The Nightmarish Bloodworm Grows Fangs Made of Metal https://www.sciencealert.com/we-finally-know-how-the-nightmarish-bloodworm-grows-its-fearsome-metallic-fangs Scientists have discovered how bloodworms make their unique copper teeth https://www.sciencedaily.com/releases/2022/04/220425121104.htm
A multi-tasking polypeptide from bloodworm jaws: Catalyst, template, and copolymer in film formation https://www.cell.com/matter/fulltext/S2590-2385(22)00153-9

グリセラ(Glycera)属は、海底に生息する肉食性のワームです。

全長は最大35センチに達し、口から生え出る長さ1〜2ミリほどの4本の牙で獲物に噛みつき、捕食します。

牙の中は空洞になっており、そこから銅を含むマヒ毒を注入でき、人でも噛まれるとかなり痛むという。

グリセラの牙は銅製で、とても頑丈にできていますが、どうやってそれを作っているのか、わかっていませんでした。

そこで今回、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の研究チームは、グリセラの牙を形成する化学的なメカニズムを調査。

その結果、複雑な牙の生成は「たった一つのタンパク質」で制御されていることが判明しました。

研究の詳細は、2022年4月25日付で科学雑誌『Matter』に掲載されています。

 

タンパク質一つで複雑な反応をコントロール

グリセラの牙の拡大図
グリセラの牙の拡大図 / Credit: Herbert Waite/CC BY-SA

本研究では、グリセラ属の一種である「グリセラ・ディブランチアタ(Glycera dibranchiata)」を対象に、牙の生成メカニズムを調査。

高度な分子解析で、牙の成分を調べたところ、10%が銅、40%がメラニン、残りの50%がタンパク質であることが特定されました。

銅を多く持つことは生体にとって有となり、G. ディブランチアタの10%は生物の中で最も高濃度と考えられます。

また、メラニンは一般に「色素」として説明されますが、実は硬度があり、熱や酸に対して強い耐性を持つ物質です。

メラニンと銅を組み合わせることで牙の耐摩耗性が大きく向上し、そのおかげで牙は、グリセラの平均寿命である5年まで頑丈に維持できると考えられます。

グリセラの牙を電子顕微鏡で拡大した画像
グリセラの牙を電子顕微鏡で拡大した画像 / Credit: Pontin et al., PNAS, 2007

そして、チームが化学的成分から構造まで精査に調べた結果、牙の生成メカニズムは、そのうちの50%を占めるタンパク質が担っていることが明らかになりました。

このタンパク質は、たった一つで多くの仕事をこなすことから「マルチタスク・タンパク質(MTP)」と呼ばれています。

MTPを形作るアミノ酸は、ほとんどがグリシンとヒスチジンであり、非常にシンプルな構造をしていました。

牙の生成メカニズムは、以下の通りです。

最初に、G. ディブランチアタが海底堆積物から摂取した銅がMTPと結合し、銅MTPを作ります。

次に、銅MTPが集合して水から分離した粒となり、体内に存在する化学物質DOPAを酸化。DOPAが酸化することで、メラニンに変わります。

最後に、銅MTPとメラニンが結合し牙を完成させますが、この結びつきは銅によってより強化されていました。

つまり、グリセラの牙に銅が多いのは、牙を強固にするプロセスの材料として重要だったからでしょう。

グリセラの牙とMTPの塩基配列
グリセラの牙とMTPの塩基配列 / Credit: Herbert Waite et al., Matter(2022)

しかし、研究チームが最も驚いた点は、MTPという単純な構造のタンパク質が、たった一つで、これほど複雑な化学反応を制御していたことです。

研究主任のハーバート・ウェイト(Herbert Waite)氏は「このような簡易なシステムで、(牙という)高度な複合材料が生成されているとは予想だにしませんでした」と話します。

こうした「少ない物質で複雑な反応をコントロールする」プロセスは、今後、人工的な材料合成の分野で大いに役立つ技術となるでしょう。

もし、何らかの方法で天然のMTPを利用したり、類似の機能を模倣できれば、複雑な装置や作業工程なしに頑丈な材料を作れるようになるかもしれません。

私たちが生物から学べることは、まだまだたくさんありそうです。

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