人間は「中脳で見る」ことで物体を背景と区別している
人間は「中脳で見る」ことで物体を背景と区別している / Credit:clipstudio . 川勝康弘
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人間はどうやって「被写体」と「背景」を脳内で区別しているのか? (2/2)

2024.02.12 Monday

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中脳はかなり複雑な図形の違いも検知できる

これまでの研究では、中による視覚は単純なものの認識しかできず、背景に紛れ込んだ「角度の違う図」のような複雑なものの検出は困難であると考えられてきました。

そこで今回、オランダ王立芸術科学アカデミーの研究者たちは、マウスを使った実験によって、背景と異物を区別する見る能力がどの程度の物なのか、また中脳のなかで特にどの領域が重要となるかを詳しく調べることにしました。

調査にあたってはまずマウスの脳の遺伝子を書き換え、光に反応して脳回路のスイッチをオン・オフに自由に切り替えられるようにしました。

そしてマウスたちの中脳の上丘と呼ばれる脳領域のごく表層付近に光ファイバーを差し込みます。

これまでの研究によって、マウスたちの中脳の上丘付近が、背景と異物を区別する能力に関与していると考えられていたからです。

マウスの準備が済むと次に研究者たちは、マウスたちとのコミュニケーションツールを作成しました。

マウスにも視覚野と中脳による2系統の視覚があり、中脳が背景から異物を区別する機能を担っていることは知られていました。

しかしマウスは人間の被験者と違ってそのことを言葉で教えてくれないため、たとえ盲視(ブラインドサイト)のような変化が起きても知ることは容易ではありません。

人間は「中脳で見る」ことで物体を背景と区別している
人間は「中脳で見る」ことで物体を背景と区別している / Credit:J Leonie Cazemie et al . Involvement of superior colliculus in complex figure detection of mice . eLife (2024)

そこで研究者たちは上の図のように、Y字型の装置を導入することで、背景に紛れ込んだ異物が左右のどちらにあるかをマウスに教えてもらう仕組みを作りました。

(※異物が左にある時にはマウスはY字型装置の左側を舐め、異物が右にある時には右側を舐めるように訓練しました)

準備が済むと研究者たちはマウスの中脳上丘に光を浴びせ、脳回路のスイッチをオフにしてみました。

するとマウスたちは脳回路がオンのときに比べて、正解となる頻度が大幅に低下していることが判明します。

この結果は、たとえマウスの視覚野が正常であっても、背景と異物を区別する中脳の機能が抑えられた場合、背景から異物を区別する能力が低下することを示しています。

またマウスたちも視覚野と中脳という異なる2系統を使って世界を見ていることがわかりました。

さらに中脳での視覚は、角度の違いのような比較的複雑な図も検知できることが示されました。

研究者たちは同様の仕組みが人間にも存在している可能性があると述べています。

たとえば座頭市のような「盲目の剣豪」は物語のなかでのみ存在しており、常識的には、目が見えない人は左右のどちらから斬りかられているかわからないと考えてしまいます。

しかし、もし座頭市の盲目が視覚野の損傷のみによって起きているならば、盲視(ブラインドサイト)が機能し、敵の位置や剣の動きを検知できている可能性があります。

また中脳による視覚は視覚野の損傷したでは、大きく増強されていることも報告されています。

さらに今回の研究では、中脳による視覚がかなり複雑な図形を認知できることも示されました。

そのため盲目の剣豪という設定は、思った以上に、あり得るのかもしれません。

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