金星
金星 / Credit:NASA/JPL
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灼熱に硫酸の大気『金星』ー美しさと共に地獄の環境を持つ惑星 (2/3)

2024.08.11 Sunday

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金星の美しさの秘密は厚い雲

空を見上げるとひときわ美しく輝く金星は、まさに女神ビーナスの名にふさわしい星です。

この輝きの秘密は金星の雲が太陽からの光をよく反射することにあります。この雲は太陽から受けた光の78%を反射します。金星は地球との距離が近いことも相まって、地球の夜空に輝く天体の中では、太陽と月に次いで3番目に明るい天体です。

大気の成り立ち

金星の大気は非常に厚く、その成分のほとんど(96%)は二酸化炭素が占めています。厚い大気のため、地表面の気圧は92気圧、温度は460℃に及びます。

金星の雲は地球の雲とは全く異なる硫酸でできた雲です。この硫酸の雲は高度45~70kmの範囲に存在しています。雲からは硫酸の雨が降ってきますが、地表がとても熱いので途中で蒸発してしまって地上まで届きません。

現在の金星は高温高圧の世界で、硫酸の雨が降るすさまじい世界ですが、金星の大気にはかつて地球の海に匹敵するほどの水が存在したという説があります

金星に水が存在した具体的な根拠の一つとして、大気中の水素と重水素の存在比が挙げられます。

これら水素の同位体は、原子核内の中性子の数が異ります。水素の原子核は陽子1つだけで、重水素の原子核は陽子1つと中性子1つで構成されています。

金星大気では、水素に対する重水素の割合が地球大気における割合と比べて100倍以上も大きいのです。重水素と比べて軽い水素が特に高い割合で宇宙空間へ逃げて行った結果であると考えると、つじつまが合います。

太陽が現在よりも若くて暗かった頃ならば、金星がそれほど高温ではないので、地球のような海が存在できたかもしれません。実際、太陽系が誕生して間もない頃、太陽の放射エネルギーは現在の70%程度しかなかったと考えられています。

金星表面に液体の海があったとして、それはいつ頃まで存在していたのでしょうか?

これには幾つかの説が存在しています。

まず、30億年前には蒸発してしまっていたという説があります。

海があったといっても、水の量が少なかったためすぐに蒸発してしまったということです。当時の海の平均水深は300mで、地球の平均水深が3800mであるのと比べるとかなり浅かったのです。

一方、今から7億年前という比較的最近まで存在していたという説もあります。20~30億年間という長期にわたって安定的に海が存在していたということです。

なぜ、大量にあった水が金星から失われたのでしょうか? それは、金星では暴走温室効果によって水が蒸発してしまったからです。

温室効果とは二酸化炭素や水蒸気などにより地表から放出される熱を大気中に保存する働きのことです。温室効果を持つガスのことを温室効果ガスといいます。温室効果のメカニズムは、地表から放射された赤外線が温室効果ガスを含む大気によって吸収されることで大気の温度が上がるというものです。

温室効果
温室効果 / Credit:環境省 地球環境局

現在の地球では二酸化炭素などの温室効果ガスによる地球温暖化が環境問題になっていますが、過去の金星では温室効果に歯止めが効かなくなった結果、大量の水が失われたのです。

過去の金星では地球と同じように多くの水を含む大気が存在しました。

金星は地球より太陽に近いため、太陽から受け取るエネルギーの量が多く、そのため地表の温度は地球より高くなります。実際、金星が受け取る太陽光は地球の約2倍です。

金星の大気には二酸化炭素とともに水蒸気が含まれていたため、その温室効果によって大気の温度が上昇しました。温度が上がるとさらに水が蒸発し温暖化がますます加速されます。

地球の場合、上空で冷やされた水蒸気は雲となり雨となって地表にもどります。

一方、金星の場合は太陽に近く大気の温度が高いため、雲(水蒸気)は液体の雨となって地上に戻らず、上層まで運ばれるのです。すると、水は太陽からの紫外線によって水素と酸素に分解されます。水素は軽いので、熱運動によって金星の重力を逃れ、宇宙空間へと飛び出していってしまいます。

残された酸素と二酸化炭素のうち、酸素は地表の岩石を酸化するのに使用され、大気中には大量の二酸化炭素だけが残りました。

このように、金星では水蒸気による温室効果が暴走し、地表の水がすべて蒸発することになったのです。そして、金星は水の雲ではなく、硫酸の雲に覆われる惑星になってしまったのです。

この硫酸の雲や雨はどのようにできたのでしょうか?これも、かつて金星に水があったとすると次のようなメカニズムが考えられます。

金星の地表は460℃という高温のため、黄鉄鉱などの硫黄を含む鉱物が二酸化炭素や水と反応して二酸化硫黄(亜硫酸ガス)を大気中に放出しました。

二酸化硫黄は硫黄を燃やしたときにできる気体です。その後、上空50km~70kmまで上昇した二酸化硫黄が酸素や水と反応して硫酸の雲になったと推測されます。

秒速100mの風

金星の大気の動きも謎に満ちています。金星の大気の最大の謎は、上空に秒速100mを超える強風が吹いていることです。この風速は地表に接している大気の風速ではありません。高度45~70kmにある雲の層の風速です。

金星の自転周期は243日で秒速に換算すると秒速1.6mです。そのため金星上空では自転の60倍もの速さで大気が回転していることになり、この現象は「スーパーローテーション」と呼ばれています

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Credit:Planet-C Project Team

普通に考えると、惑星の固体部分の自転とかけ離れた大気の高速回転の持続は困難です。そのような高速回転が一時的に発生しても地表との摩擦によって、大気の速度は減速していき、結局は固体部分の自転と同程度になるはずだからです。

また、金星の自転は非常に遅いので、太陽に面した昼側の面と太陽と反対の夜側の面では温度差が大きいと考えられます。この状態では昼側で上昇気流が生まれて夜側に向かい、夜側で下降気流となってまた昼側に向かうという循環になると予想されます。

実際に、金星の高度100kmの「熱圏」と呼ばれる層ではこのような対流が生じていると考えられています。なぜ雲の層や下層大気でも夜昼間の対流が支配的にならないのでしょうか?

このように、金星のスーパーローテーションは力学的にも気象学的にも不思議な現象と考えられてきました。この現象を説明するための多くのメカニズムが提案されていますが、まだ完全な解明には至っていません。

この現象を説明する有力な説の1つが、「熱潮汐波メカニズム」です。大気は昼間熱せられて膨張し、夜冷却されることで収縮します。これが繰り返されることで大気中に波が発生します。この波が「熱潮汐波」です。雲の層で太陽光が吸収されて熱をもつとそこから熱潮汐波が上下方向に伝わっていきます。

熱潮汐波は太陽による加熱が原因の波なので、波の発生源は太陽方向つまり自転と逆方向に動いていきます。

その反動で自転の向きの運動量が増加するのです。上空に向かった熱潮汐波は散逸し、下方に向かった熱潮汐波は地表に吸収されます。それらを差し引いた自転方向の運動量のみが残ります。そのために雲の層は自転の速度以上のスピードで動くようになります。

これが、熱潮汐波によるスーパーローテーションの発生メカニズムだというのが現状の理解です。

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