産業技術総合研究所(産総研)の情報・人間工学領域 副領域長の佐藤洋さん
産業技術総合研究所(産総研)の情報・人間工学領域 副領域長の佐藤洋さん / Credit:産業技術総合研究所
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【ナゾロジー×産総研 未解明のナゾに挑む研究者たち】「仕事のストレスを分担してくれる」感情を読むAI研究 (3/4)

2024.04.03 Wednesday

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AI接客が発する「ありがとうございました」の本質

――ここまで高機能な接客支援AIができるなら、接客そのものを全てロボットなどに任せることはできないのでしょうか?

佐藤:もちろんそのような研究も盛んに行われています。人間が行っていたあらゆる仕事をAIに任せることができれば、大幅なコストカットが実現します。

――究極的には、社長から全従業員まで全てAIロボットという時代が来るのでしょうか?

佐藤:いえ、そうはならないでしょう。あらゆる仕事にはAIに任せられる部分がありますが、全てではありません。特に接客の分野では「人間ありき」が続くはずです。

――それはなぜでしょうか?

佐藤:AIを搭載した接客ロボットから聞こえる「ありがとうございました」や「またおこしください」という接客のセリフは、AIが状況を読み取って、最適解を出力した結果に過ぎません。つまり厳密には誰も、お客に対して「ありがとうございました」と感謝しているわけではありませんし、「またおこしください」とお願いしているわけでもありません。やや厳しい言い方をすれば、完全に自動化された接客ロボットのような存在は「おもてなし」をしていないんです。

トレーニングの評価で気をつけること*1
トレーニングの評価で気をつけること*1 / Credit:産業技術総合研究所

――目から鱗が落ちた気分です。AIの接客フレーズは本質的に、自販機のボタンを押して聞こえてくる「アリガトウゴザイマス」の音と同じわけですね。

佐藤:ただ、もちろん、全ての場面で真心のこもった接客は無理です。人間心理的にも常に全力な「おもてなし」を感じていては疲れてしまいます。ちょっとしたリクエストなら人間を呼びつけるよりも、機械に頼んだ方が気疲れもないですからね。特にワンオペの牛丼屋さんや繁盛しているラーメン屋さんなどでは、機械を使って食券を販売するなど、効率的なやりとりが重視されます。

――注文にタッチパッド入力を取り入れているお店が増えているのも、そういった事情があるのかもしれませんね。

佐藤:ですが依然として人間要素は、極めて重要です。味やサービスの質がライバル店より劣っていても、来てくれるお客様を確保できれば、お店が潰れることはありません。老舗が新参に負けずに何百年も続いているのは、強固な人と人の関係、つまり人間ありきの接客が続けられていたからです。

AIを使った接客トレーニングが付加価値の向上につながる。
AIを使った接客トレーニングが付加価値の向上につながる。 / Credit:産業技術総合研究所

佐藤:他にも買い物は人間の自尊心を満たしたりストレスを解消したりなど、人間的な要素が色濃く出る瞬間でもあります。特に高付加価値の商品では、人間的要素の重要性は高まります。さまざまな商品がネット販売に移行している中で、ブランドショップが依然として多くの店舗を抱えているのはそのためでもあります。

――確かに…ブランドショップに店員がおらず、自販機みたい商品が並んでいるだけだと、ショッピングも楽しくなくなってしまいそうです(笑)

佐藤:接客に人間を使い続ける利点は、スタッフ側にもみられます。研究に協力してくださったレストランでは、お客様からの感謝の言葉を引き出すタイミングを見計らって、新人スタッフにコーヒーのサービスを任せることがあります。これは新人たちのやる気を引き出し、自信を育む隠しテクニックです。人間の店員は、現場でどんどんスキルアップしていきますし、モチベーションを高めることも可能です。活気がある店はそれだけで魅力的です。

――二足歩行の接客ロボットができたら、活気を持たせることはできるでしょうか?

佐藤:人間の言葉や身振りを真似て再現することはできるでしょう。しかし活気は生きている人間からしか感じることはできません。

――「人間ありき」の接客の必要性、そしてそれを支援するAIの開発は、これからの人類社会になくてはならないものになると確信できました。

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