脳は「覚える」よりも「忘れる」方に労力を使うことがわかる

brain 2019/03/12
Point
■テキサス大学の研究により、脳は「覚える」よりも「忘れる」方により大きな労力を使うことが判明
■これは「意識的な忘却」が、忘れたい記憶に向かう注意をそらしつつ抑圧や修正を行うという複雑な作業をするためである
■「忘れよう」とする意識が強すぎると、逆に「記憶」の力が働くため「忘却」には「中程度」の働きが必要

受験シーズンも一段落ついた今日この頃。英単語や世界史の年号などを記憶するのに地獄を見た、という方も多いのではないでしょうか。

しかしテキサス大学オースティン校の脳科学研究チームによると、脳は「覚える」よりも「忘れる」ことのほうが大きな労力を使うことが判明したのです。

研究は、3月11日付けで「Journal of Neuroscience」に掲載されました。

More is less: increased processing of unwanted memories facilitates forgetting
http://www.jneurosci.org/content/early/2019/03/08/JNEUROSCI.2033-18.2019

記憶には流動性があるから「忘れる」ことができる

「記憶」は、常に固定的で安定しているわけではありません。私たちは絶えず新しい人や出来事にめぐり合うため、当然、新たな記憶も増幅していきます。その度に、記憶内容は修正や再構築を繰り返してアップデートされていくのです。

このように、記憶はとても流動的でダイナミックな姿をしています。また脳は必要な記憶を自動的に覚えたり忘れたりしますが、この作業の大半は睡眠中に行われているのです。

ただしこうした自動的な取捨選択は、日常の簡単な記憶に対するもので、トラウマのような強烈に残っている記憶に対しては行われません。トラウマ的な記憶は、想起されると思考や行動に悪影響を及ぼすため、「忘却」はどうしても必須となります。

しかし柔軟で流動的な「記憶」の性質のおかげで修正や変形を行うことができ、「忘却」へとつながります。そして同研究チームが対象としたのは、この「意識的な忘却」のプロセスについてでした。

「忘れる」ことにはエネルギーが必要

チームは、「ニューロイメージング法」を用いて、脳内の活動状態を画像として記録しました。今回、焦点が当てられたのは、「腹側皮質視覚路」という感覚や知覚の働きを司る脳領域です。この部分は、特に、過去の記憶について「視覚的に」思い出す働きに関与します。

Credit:medicalxpress/ニューロイメージング画像

実験では、健康的な成人の被験者グループに、「人の顔」や「景色」が写った画像をいくつか見てもらい、それぞれの画像に対して「記憶」と「忘却」の作業をしてもらいました。

すると、その際の脳波は、「記憶」よりも「忘却」の方に活発な働きが見られたのです。主任研究員のジャロッド・ルイス・ピーコック氏によると、「意識的な忘却」は、忘れたい記憶対象から注意をそらしつつ、抑圧・修正しなければならないため、より大きなエネルギーを使うことになるとのこと。

「忘れる意識」は強すぎても弱すぎてもダメ

さらに、「意識的な忘却」には、脳の感覚・知覚領域における「中程度(moderate level)」の活動レベルが重要であるのです。

というのも、忘れようとする意識が強すぎると、却って注意が向けられ、記憶の力が強められてしまいます。しかし、反対に、忘却の意識が弱すぎると、トラウマや苦い思い出を修正することができません。

つまり、「忘却」の狙いの重要性は、記憶力の活動をある程度強めて、消したい記憶を修正したり変形させるということなのです。

また、ピーコック氏は、「忘却」に関する研究が発展し、記憶を修正する良い方法が見つかれば、トラウマに悩む人々の新たな治療法として役立つかもしれない、と期待しています。

受験に苦労した方には驚くべき結果となったかもしれませんね。でも、忘れられない過去に苦しんだことのある方には希望が持てる話ではないでしょうか。

記憶の保存場所は海馬ではない? 脳の物理的変化は数時間で起こるという新研究 

reference: medicalxpress / written & text by くらのすけ

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