砂糖を使った分子の剣!?ウイルスの殻を切り裂く新型分子が開発される

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Credit:Smanchester
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  • 今までの抗ウイルス剤はウイルス増殖をおさえるだけで殺せなかった
  • ウイルスのタンパク質を物理的な力で崩壊させる、砂糖ベースの殺ウイルス剤が開発された

ウイルスは殻となるタンパク質と内部の核酸のみという、極めて単純な構造をしています。

しかしその単純な構造ゆえ、殺すことは困難でした。タンパク質と核酸は私たちの細胞の主な構成要素であり、どちらかでも破壊しようとすと、人体に副作用が出てしまうからです。

そのため、これまでの抗ウイルス薬はウイルスを殺せず、増殖を抑えることしかできませんでした。

しかし今回、スイスと英国の研究者たちによって、糖をベースにした、人体に毒性を与えずに「ウイルスを殺せる」抗ウイルス剤が開発されました。

研究内容はスイスのローザンヌ連邦工科大学(EPFL)のSamuel T. Jones氏らによって学術雑誌「Science Advances」に報告されました。

ウイルスのタンパク質を引き裂く分子を設計する

このグルコースの構造があつまって環状になる/Credit:wiki

研究者たちは殺ウイルス剤を設計するに当たり、ベースとなる骨格を選定しました。

選ばれた骨格は天然のグルコース誘導体です。

グルコース誘導体は強固な環状構造を持ちながらも、人体に安全であり、すでに食品や化粧品に使われています。

ベースと成る四角で囲まれた糖構造の上に長い鎖をつけて、さらに先端に「S」を含むスルホン酸基を結合させる/Credit:Science Advances 29 Jan 2020

研究者たちはここに、長いアルキル鎖をつなぎ、その先端にスルホン酸基を結合させました。

スルホン酸基は強酸性と強い電子求引性を持ち、ウイルスのタンパク質を破壊することができるとされます。

いわば、強靭な土台(グルコース)に長い棒(アルキル鎖)をつけ、先端に鋭い刃物(スルホン酸基)をつけたといったところです。

研究者たちはこの3タイプの分子(CD1、CD2、CD3)を設計し、それぞれの殺ウイルス能力を確かめました。

なぜ糖分子がウィルスのたんぱく質を切り裂けるのか?

Credit:pixabay

設計した3タイプの分子をウイルスに加えて、それぞれの効果を確かめた結果、長い鎖を持つ「CD1」が最も効果出来であることがわかりました。

「CD1」は5分でウイルスの感染力を減少させ始め、15分後には完全に不活性化させました。

では、なぜ「CD1」が最も効果があったのでしょうか?

それを調べるため、研究者はウイルスのタンパク質とCD1の結合のシミュレーションを行いました。

シミュレーションの結果、CD1の長い鎖が殺ウイルス作用の重要な要素であることが判明。

CD1はウイルスのタンパク質に結合すると、構造的特性を生かしてウイルスのタンパク質の構造を引き伸ばし、崩壊させているとわかりました。

CD1は様々なウイルスに対して効果がある

Credit:pixabay

また、研究者たちはCD1を様々なウイルスに加えても効果があるか試しました。

結果、CD1はHIV、HPV(ヒトパピローマウイルス)、HSV-2、C型肝炎、ジカ、呼吸器合胞体ウイルスなどの広範な性感染症に対しても明確な効果を示しました。

またCD1の作用がウイルスの構造を物理的に破壊する効果があるために、ウイルスにとっては有効な対策手段がなく、耐性を生じにくい特徴があります。

しかしウイルスは細菌よりもさらに変異しやすい性質があり、無限の対抗手段を誇ります。

いつか、CD1による物理的な破壊力に対抗して、タンパク質の構造を強化してくるかもしれません。

その時には、さらに強力な殺ウイルス剤ができていることを願うばかりです。

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reference: sciencedaily / written by ナゾロジー編集部
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