細菌の成長過程と人類が「大都市」を形成する様子はそっくりだった

biology 2020/03/23
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point
  • 歯に付着する歯垢(プラーク)の成長過程が、人類の都市化のプロセスに似ていることが明らかになった
  • 細菌のコロニーは、基本的には栄養素を取り合う敵対関係にあるが、都市化が進むと協力する

細菌はバイオフィルム(菌膜)と呼ばれる大きな集合体を作ります。

虫歯の原因になる歯垢(プラーク)や、台所のヌメリなどが代表例です。

あまり気持ちのいいものではありませんが、細菌がどのようにしてこの巨大なバイオフィルムを形成するかについては、実はまだ詳しくわかっていません

新しい研究では、このバイオフィルムの形成過程を解析し、衛星視点で眺めた人類の都市化と構造的特徴がよく似ていると解説しています。

この秘密が解き明かされれば、虫歯に悩まされることもなくなるのでしょうか?

この研究は、ペンシルバニア大学のAmauri J. Paula氏を筆頭とした研究チームより発表され、論文は3月13日付けでオープンアクセスの学術雑誌『Nature Communications』に掲載されています。

Dynamics of bacterial population growth in biofilms resemble spatial and structural aspects of urbanization
https://www.nature.com/articles/s41467-020-15165-4#Sec9

細菌たちの集合体「バイオフィルム」の謎

バイオフィルムの形成過程。/Credit: D. Monroe. “Looking for Chinks in the Armor of Bacterial Biofilms”. PLoS Biology 5 (11, e307).

細菌は「コロニー」を作って生活しています。

最初にできるコロニーは非常に小規模なもので、各種の細菌ごとに単種で形成しているものです。

それは次第に結合して、バイオフィルムという大きな集団を形成していきます

フィルムと呼んでいますが、これは何百万もの多様な細菌が詰め込まれた複雑な立体構造物です。原核生物の99.9%は、最終的にこのバイオフィルムの中で共同生活を送ることになります。

しかし、細菌たちのコロニーは基本的に、栄養素を奪いう敵対関係を築いていて、最初にコロニーを作り出した場所に定住します。

一体どうして複数のコロニーが集まり合って、巨大な集合体を形成するのか? どうのようにこの減少が起きるのかは、まだ十分に研究が進んでいないのが現状です。

虫歯の原因 プラークを解析

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私たちにとって、もっとも身近なバイオフィルが、歯の根本にできる歯垢(プラーク)です。

今回の研究者たちが対象にしたのも、人間の口腔内に棲む細菌、ストレプトコッカス・ミュータンス(通称ミュータンス菌)です。

ミュータンス菌は、集まるととてもネバネバとしたプラークを作って歯にべったりと張り付きます

そして、口腔内にある食べカスから糖分を分解して増殖していきます。このとき酸が生産され、それが歯を腐食して虫歯の原因になるのです。

ちなみにミュータンス菌の酸の生産速度と、人体が歯を修復する速度は大体一致しているので、きちんと規則正しく食事を取っている人は虫歯になりにくいと言われています。

虫歯になる人は、間食などで、歯の修復が追いつかないほど勢いよくミュータンス菌に餌を与えている人なんだとか。

ミュータンス菌。/Credit:ヤクルト中央研究所

研究者たちは、このミュータンス菌がバイオフィルムを形成するまでの様子を観察し、そのメカニズムの解明を目指しました。

彼らは最初、すべての細菌が増殖していくと考えていました。しかし、実際は増殖するの40%程度で、あとは死滅するか、他の巨大化したコロニー(マイクロコロニー)の成長に飲み込まれてしまいました。

マイクロコロニーとは巨大化(顕微鏡で観察できるサイズ)した細菌コロニーのことで、バイオフィルムの手前の段階です。

基本的にマイクロコロニーの段階では歯磨きで洗い落とせますが、バイオフィルムまで成長されると歯磨きやフロスでも、除去することが困難な粘着性を発揮します。

コロニーの細菌たちは基本的に定住するのですが、一部の細菌たちは移民を始めることがわかりました。

移民者たちは隣接する細菌たちと混ざり合い高密度のマイクロコロニーを発生させていき、新しいクラスター(集団)を作り始めるのです。

クラスターが発生すると、非常に不思議なことに彼らは相互作用を始め、高密度に集積して、成長・組織化され、バイオフィルムの上部構造を形成し始めるのです。

過去の研究では、細菌同士は栄養素の不足などで敵対することが報告されていました。しかし、今回の発見はそんな彼らが協力関係を築き始めたことを示しています。

栄養素の取り合いが作用するのは、コロニーの発生段階だけでした。個々のマイクロコロニーは競合することなく成長を続け、複数のマイクロコロニーが合流した後は、単一の新しい調和した共同体として振る舞うのです。

より多くの敵対的な外来種を混入させた場合のみ、この平和な集団は影響を受けて、成長が低下したと、研究者は報告しています。

人類の都市化と細菌たちの活動

研究者たちは、これらの共同体(マイクロコロニー)は、隣接する他の共同体と競争することなく、互いに協力的な方法で、自らの拡大と融合を行うことができるのだと説明しています。

バイオフィルムの形成過程(左上から右下へ向けて成長)。これは都市化の空間的・構造的な側面に似ている。/Credit:Paula et al., Nature Communications, 2020

これは人類の一部が入植者となって、徐々に集合体を大きく広げていき、村からさらに人口密度の高い都市へ、そしてさらに都市同士が合併して、巨大都市を形成するというメカニズムに非常に似ています。

もちろん細菌を擬人化した考え方には限界があり、彼らがインフラ整備をしながら成長していると言っているわけではない、と研究者たちは語っています。

しかし、バイオフィルムの成長を、衛星視点の人類の活動のように、多面的、多次元的に見ることは、感染症を始め、細菌の持続的な拡大のメカニズムを理解するために役立つ考え方だといいます。

衛星のような視点で人類の発展を眺めると言われて、シミュレーションゲームを想像した人が多いかもしれません。

コロナウィルスの影響で家に籠りがちな昨今、細菌のバイオフィルム形成を思い浮かべながら、シミュレーションゲームで暇つぶしをするというのもいいかもしれませんね。

今回の話により理解が深まるでしょう。

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reference: sciencealert/ written by KAIN
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