脳のスイッチをオフにして「記憶を削除する薬」が開発される

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直前の記憶をわずか10秒で抹消する薬が開発された/Credit:Nature Neuroscience
point
  • 脳細胞の活動をオフにする記憶削除薬が開発される
  • 記憶削除薬はオフスイッチとトリガーから構成される
  • 作業記憶にかかわる脳細胞をオフにすると直前の記憶が失われる

記憶を何度でも安全に消去できる即効性のある薬、DCZ(デスクロロクロザピン)が開発されました。

この薬を投与されたサルは僅か10秒ほどで記憶が失われ、目の前で箱に隠されたエサの行方がわからなくなってしまいました。

またこの記憶消去薬は、サルの作業記憶を司る神経細胞の活動をオフにすることによって効果を発揮します。

にもかかわらず、安全性が極めて高く、効き目も24時間で完全に消えることから、繰り返しの使用が可能。サルから何度でも同じ内容の記憶を奪えました。

この完全にクリーンな記憶削除薬が推理小説の世界に導入された場合、全ての人間の証言から信ぴょう性が失われ、名探偵を悩ますことになるでしょう。

記憶消去には事前の「オフスイッチ」の仕込みが必要

オフスイッチを作業記憶を担当する脳細胞に仕込む/Credit:Nature Neuroscience

新たに開発された記憶消去薬を作用させるには、事前にペアとなる別の薬が必要となります。

この相方となる薬は化学的に合成された小分子化合物であり、DNAが作る特定のタンパク質を変質させて「hM4Di」と呼ばれる特殊な人工受容体(デザイナー受容体:DREADD)を神経細胞の表面に出現させます。

この人工受容体が出現した神経細胞にDCZが結合すると、その神経細胞は活動が強制的にオフになります。

人工受容体とDCZの関係は「オフスイッチ(人工受容体)」と「トリガー(DCZ)」の関係に例えることもできるでしょう。

サルにド忘れを強制する

記憶を削除されたサルはエサの位置を忘れるが、エサがあったことは覚えている/Credit:Nature Neuroscience

研究者は効果の実証のためにサルを使った実験も行いました。

実験は極めてシンプルであり、上の図のようにサルの目の前で報酬となるエサを左右のフタのついた箱の中に隠し、次にサルと箱の間をカーテンをひいて、箱を一瞬だけ(0.5~10秒)隠し、すぐにまたカーテンをあけます。

サルが馬鹿でない限り、エサが左右どちらの箱に隠されたかを覚えています。

オフスイッチを仕込まれただけのサルも、エサがどちらに隠されたかを覚えていました。

しかしオフスイッチを仕込んだサルに対して、カーテンで仕切る前にDCZを投与した場合、僅か10秒カーテンで仕切るだけで、サルの正答率は50%まで落ちました。

2つのうち1つが正解の問題で正答率50%ということは、つまり完全なあてずっぽうです。

ただ興味深いことに、サルはエサがどちらに入っていたかは完全に忘れていたものの、フタをあけようとしたことから、エサがあること自体は忘れていなかったのです。

つまりオフスイッチとDCZによる記憶消去は空間的な記憶のみを選択的に奪っていた、ということになります。

人間に例えれば、左右どちらの道の先に財宝があることは覚えていても、どっちだったかがわからなくなってしまった、ということです。

またこの結果は、報酬の存在の記憶と空間的情報の記憶が別の神経細胞に支配されていることを意味します。

報酬の存在自体の記憶を消すには、また別のオフスイッチとトリガーの組み合わせを探さないといけないようです。

使い道は無限

Credit:depositphotos

研究者たちは、この記憶削除薬の具体的な利用法として、異常な脳細胞の興奮が引き起こす「てんかん」の治療をあげています。

発作が起きて脳細胞が興奮状態になったとしても、事前にオフスイッチさえ仕込んでおけば、トリガー接種で異常興奮した神経細胞をオフにして鎮めることができます。

もし今後、様々な種類の記憶を選択的に消去する薬ができた場合、白いモノを黒だと誤らせたり、あるいは白だったこと自体を忘れさせることができるかもしれません。

記憶削除ツールの使い道は、限りがなさそうです。

研究内容は日本の国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構のYuji Nagai氏らによってまとめられ、7月6日に学術雑誌「Nature Neuroscience」に掲載されました。

Deschloroclozapine, a potent and selective chemogenetic actuator enables rapid neuronal and behavioral modulations in mice and monkeys
https://www.nature.com/articles/s41593-020-0661-3

2700年前の石版に「てんかん」を引き起こすデーモン像が発見される

【編集注 2020.07.21 12:40】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。
reference: 日本の研究.com / written by katsu
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