ペストのマスクが不気味な「カラス型」になったのはなぜなのか? 発明した人物は?

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Credit: ancient-origins

新型コロナウイルスの再拡大に伴い、世界はマスクが手放せない時代となりましたが、過去にも感染症により「危機の時代」と呼ばれた時がありました。

14〜17世紀にヨーロッパを襲った「ペスト(黒死病)の大流行」です。

ペストや黒死病と聞いて一番に思い浮かべるのは、不気味なカラス型のマスクではないでしょうか。

これは、当時の疫病医が身につけた防護服ですが、死神の使いのようで、患者としては気分の良いものではない気がします。

なぜこのような形になったのでしょうか。そして、カラス型マスクを発明したのは誰だったのでしょうか。

ペストの大流行は「気候変動」が招いた?

ペストは、ペスト菌によって起こる感染症で、げっ歯類を宿主とし、ノミによって人に伝染されます。致死率がきわめて高く、治療がされない場合は60〜90%に達しました。

感染者の皮膚が内出血により黒く変色することから「黒死病」とも呼ばれます。

ペストにより死にゆく人々/Credit: ja.wikipedia

ペストの大流行は、過去複数回にわたり世界各地で起こりましたが、中でも14〜17世紀のヨーロッパを襲ったペストは危機的なものでした。

そもそも14〜17世紀にペストが大流行した原因は、地球の気候変動にあると言われます。

地球は、14〜19世紀まで小氷期に入りました。

ヨーロッパでは、暖炉で燃やす薪が足りなくなり、羊毛の上着を十分に乾かせなくなります。そのせいでペスト菌を媒介するノミが大繁殖し、ヨーロッパ中に広がったのです。

さらに、寒冷化による不毛不作が、人々を飢饉に陥れ、追い討ちをかけました。特に14世紀の大流行では、当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡したと言われています。

ペスト医師はどんな仕事をした?

ノストラダムス/Credit: ja.wikipedia

ペストの疫病医は、14世紀にはすでに存在していましたが、カラス型マスクが着用されるのは17世紀からです。

彼らは、感染症の治療を専門としたヨーロッパ人の医師であり、疫病が発生したときに村や町、都市に雇われた公務員でした。

主な仕事は、ペスト患者の治療および遺体の埋葬です。また、1日の死者数を日誌にまとめ、死者の遺言を記録する仕事も請け負いました。死者や危篤状態の患者の遺言を証明する証人として、召喚されることもしばしばあったそうです。

それから、疫病の治療法を探すために、遺体を検死解剖することもありました。

かの有名なノストラダムスもペスト医師として活躍しています。

カラス型マスクを発明したのは誰?

17世紀以前、ペスト医師たちは各々が異なる防護服を着用していました。それから専用のペストスーツが発明されたのは、1619年のことです。このスーツは開発後すぐにペスト医師の高い人気を得ました。

発明したのは「シャルル・ド・ロルム」という人物です。ロルムは、フランス人の高名な医師で、アンリ4世、ルイ13世、ルイ14世の主治医も務めました。

シャルル・ド・ロルムの肖像画/Credit: 国立西洋美術館

ロルムのペストスーツにはいくつかの決まりごとがあります。

まず第一に、必ず「ハット」が被せられます。これは革製のもので、スーツ着用者がペスト医師であることを証明する印でした。

次に、スーツは首から足先までを覆う「オーバーコート」になっています。これにより、肌の露出を最小限に抑え、患者の体液に直接触れないようにしました。

Credit: ja.wikipedia

最後に、疫病医は「木の杖」を持ち歩きました。これには様々な機能があります。

例えば、医師は杖を使って、患者に直接触れることなく診察したり、助手や患者の家族に向けて、患者をどこに移動させるべきかを杖で指示しました。

また、自暴自棄になった患者の暴力にも杖で応戦したそうです。全体的に見ると、もはや黒魔術師ですね。

マスクが「カラス型」なのはなぜ?

そして最も目を引くのが、「カラス型マスク」です。

医療が現代ほど発達していない当時、ペストは鳥によって伝染するものと信じられていました。そのため、マスクを鳥型に模すことで、患者の病気を鳥に移し返し、快復に向かわせるという意味があったようです。

ただこれは心理的な理由で、別に実用的な理由もあります。

クチバシ型のマスク内には、強い香りを放つアンバーグリス(龍涎香)やミント、バラの花ビラが詰められていました。ペスト医師たちは「感染病は悪臭(悪い空気)で広がる」と考えていたので、強い香りにより病気を遠ざける意味があったのです。

しかし、今日の医学的知識からすると、これも心理的なものに近く、実際の効果はあまりなかったと思われます。

Credit: ancient-origins

ロルムのペストスーツが、どれほどの実用性を持っていたかは不明ですが、ロルム自身は90代まで生きたそうです。しかし、スーツを着用した医師の多くがペストの犠牲になり、命を落としました。

その後、ペストスーツは死の象徴として一人歩きし、現在ではフィクション作品にも使われたりします。

しかし、マスクの下の医師たちは、新型コロナに立ち向かう現代の医療従事者とと同様に、自らの命を賭して懸命な活動を続けていたのでしょう。

 

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reference: ancient-origins / written by くらのすけ
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