ティラノサウルスには「唇」があった⁈
ティラノサウルスには「唇」があった⁈ / Credit: Mark Witton/University of Portsmouth(Science, 2023)
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ティラノサウルスには「唇」があった可能性!そのメリットとは?

2023.04.03 Monday

ティラノサウルスと聞くと、鋭い牙を剥き出しにした獰猛なイメージが浮かびます。

ところが実際は牙がまったく見えなかったのかもしれません。

米オーバーン大学(Auburn University)、英ポーツマス大学(University of Portsmouth)の最新研究で、ティラノサウルスを含む肉食の獣脚類には、私たちと同じように歯を覆い隠す「唇」があった可能性が示唆されました。

これにより、大口を開けた状態でも牙は先端がちょこっと見え隠れする程度だったと思われます。

では、恐竜が「唇」を持つことにどんなメリットがあったのでしょう?

研究の詳細は、2023年3月30日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。

T. rex had lips, new study suggests https://www.science.org/content/article/t-rex-lips-new-study-suggests New paper: Fresh evidence and novel analyses strongly suggest that theropod dinosaurs were lipped http://markwitton-com.blogspot.com/ T. rex had thin lips and a gummy smile, controversial study suggests https://www.livescience.com/t-rex-had-thin-lips-and-a-gummy-smile-controversial-study-suggests T. rex may have had lips like a modern lizard’s https://www.sciencenews.org/article/trex-lips-modern-lizards-dinosaur
Theropod dinosaur facial reconstruction and the importance of soft tissues in paleobiology https://www.science.org/doi/10.1126/science.abo7877

唇のないワニに近いか、唇があるオオトカゲに近いか?

実は古生物学者の間では以前から「ティラノサウルスが唇を持っていた可能性」について検討されていました。

ティラノサウルスを含む肉食の獣脚類は、唇がなく歯が常に剥き出しのワニに似ているのか、それとも大きな歯がウロコ状の唇に覆われていて見えないオオトカゲに似ているのか、議論が交わされていたのです。

オオトカゲとワニでは牙を覆う皮膚の有無がある。T-レックスはどちらにより近かったかが議論されている。
オオトカゲとワニでは牙を覆う皮膚の有無がある。T-レックスはどちらにより近かったかが議論されている。 / Credit: THOMAS CULLEN et al., Science(2023)

この謎に決着をつけるべく、研究チームは獣脚類の化石絶滅および現生する爬虫類(ワニとトカゲ)の化石を比較分析することにしました。

まず、それぞれの種の上顎がどれだけ似ているかを知るため、上顎の歯の付け根付近に見られる「骨の穴」を調べています。

この穴は口の周りの軟部組織に血管や神経を送るためのものです。

その結果、ワニ類では穴が上顎に広く点在していたのに対し、トカゲ類と獣脚類では歯の付け根に剃ってきれいに一列に並んでいました。

この点から、獣脚類はワニ類よりトカゲに近い上顎をしていたことが伺えます。

Aハナブトオオトカゲ、Bイグアナ、Cアリゲーター、D絶滅ワニ、Eティラノサウルス
Aハナブトオオトカゲ、Bイグアナ、Cアリゲーター、D絶滅ワニ、Eティラノサウルス / Credit: THOMAS CULLEN et al., Science(2023)

唇に覆われていると歯が乾燥せず丈夫になる!

次に、ティラノサウルスの近縁種でやや小型の「ダスプレトサウルス」の歯を用いて、ワニ類およびトカゲ類と比較しました。

するとワニ類の歯のエナメル質は摩耗が激しかったのに対し、ダスプレトサウルスとトカゲ類ではエナメル質の摩耗がなく、非常に滑らかだったのです。

研究主任のマーク・ウィットン(Mark Witton)氏は、歯のエナメル質は乾燥すると摩耗しやすくなると説明します。

トカゲ類の歯は唇に覆われていることで水分が保たれ、丈夫で健康な歯を維持しています。

ところがワニの歯は唇がなく常に露出しているせいで乾燥がひどく、摩耗も激しくなっていました(特に口内側より表面側がより摩耗していた)。

ウィットン氏によると、ワニ類の歯は実際、水分が保たれにくいために丈夫さに欠け、折れやすいという。

そのため、ワニ類の歯は折れたり抜けたりすると、次の歯が生えてくる仕組みになっており、一生の間に20回以上、合計で2000本の歯が生え変わると言われています。

そしてダスプレトサウルスの歯に摩耗が見られなかったことは、トカゲ類と同じく「唇」に覆われていた可能性を示唆するものです。

唇があることで歯の水分が保たれて頑丈になるのなら、捕食者である獣脚類には大きなメリットでしょう。

上:ティラノサウルスの頭蓋骨、中央:ワニのように唇がなかった場合、下:トカゲのように唇があった場合
上:ティラノサウルスの頭蓋骨、中央:ワニのように唇がなかった場合、下:トカゲのように唇があった場合 / Credit: THOMAS CULLEN et al., Science(2023)

歯を覆えるサイズの「唇」を持つことはできたか?

さらにチームは、獣脚類に唇があったと仮定して、上下一対の唇が恐竜の大きな歯を覆うことができたかどうかを検証。

ティラノサウルスとオオトカゲのそれぞれで、歯冠(歯茎からでている部分)の高さ・顎の長さ・頭蓋骨の大きさの比率を調べました。

その結果、両者の各部位の比率はほぼ一致しており、このことから獣脚類もオオトカゲと同様に歯を覆えるサイズの唇を持つことができたと結論されています。

これを受けて、同チームのトーマス・カレン(Thomas Cullen)氏は「ティラノサウルスの歯は顎の先端から伸びた皮膚とウロコの唇に覆われ、歯が露出しないようになっていたのでしょう」と話しています。

大口を開けても歯を露出しなかった?
大口を開けても歯を露出しなかった? / Credit: Mark Witton/University of Portsmouth(Science News, 2023)

しかしティラノサウルスに唇があったとして、それがどの程度の大きさだったのか、本当に歯を覆えるほどの幅があったのかなど、正確なことは分かりません。

唇は軟部組織ですから、骨と違って化石を見つけるのも極めて困難です。

本研究には参加していない英エディンバラ大学(University of Edinburgh)の古生物学者スティーブ・ブルサット(Steve Brusatte)氏は「ティラノサウルスの唇の問題についてはここ数年で多くの議論がなされてきましたが、この研究はとても良い論証をしている」と指摘。

その上で「ティラノサウルスが現在のオオトカゲと同じような唇を持っていたかどうかは断定できず、この行き詰まりを解決するには更なる化石記録を調べるしかありません」と述べています。

もしティラノサウルスに唇があれば、見た目の怖さは目減りするかもしれませんが、歯の丈夫さはパワーアップするので、より強靭な噛みつきができた可能性があるでしょう。

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