ネアンデルタール人には死者に花を供える文化があったのか?
ネアンデルタール人には死者に花を供える文化があったのか? / Credit:群馬自然史博物館
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ネアンデルタール人は「死者に花を供える文化があった」は勘違いだった (2/2)

2023.09.01 Friday

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ネアンデルタール人の死者に花を供えたのはハチだった?

研究チームは今回、シャニダール4号の周囲で見つかった花粉を改めて再調査することに。

その結果、花粉の塊には複数種の花が含まれており、その全てが同じ時期に花を咲かせるものではないことが判明しました。

常識的に考えれば、まず穴を掘って故人の遺体を安置し、その上に摘み取った花を供えて土をかぶせるわけですから、咲く時期の異なる花が一緒に埋葬されるのは不自然です。

お葬式から数カ月たって綺麗な花が咲いたから、また穴を掘り返して、新たに花を供え直したというのでしょうか?

その説は考えにくいことから今回のチームは、花葬仮説に疑いの目を向けました。

そしてシャニダール洞窟の遺跡を調べ直したところ、4号の埋葬地のすぐ側に注目すべき発見をしたのです。

それは土の中に営巣するハチが作った穴でした。

シャニダール4号の埋葬地のすぐ側に見つかったハチの巣穴
シャニダール4号の埋葬地のすぐ側に見つかったハチの巣穴 / Credit: Chris O. Hunt et al., Journal of Archaeological Science(2023)

この穴を掘ったハチが正確にどんな種類かは不明ですが、現代にもツチバチやアナバチのように土の中に穴を掘る種がいます。

研究者らは、ハチであれば、巣穴を移動しながら集めた花粉を堆積させることがあるため、時期の異なる花の花粉が同じ場所にあることの説明もつくと指摘します。

現にシャニダール4号の周囲では花粉だけが回収されており、花びらや茎は見つかっていません。

となると、これらの花粉はネアンデルタール人よりも、土を掘るハチの運んだものと考える方が合点がいきます。

チームは花粉とハチの巣穴の正確な年代は測定できないものの、おそらくシャニダール4号の埋葬とほぼ同時期であると推定しました。

花粉の一つは「トゲトゲの花」と判明

さらにチームは、回収された花粉の一種が「イガヤグルマギク(yellow star thistle)」という、長さ2センチ程のトゲトゲを無数に生やす花であることを特定しました。

こちらをご覧いただければ、かなりトゲトゲしい花であることが分かります。

花粉の一種は「イガヤグルマギク」と判明
花粉の一種は「イガヤグルマギク」と判明 / Credit: Chris O. Hunt et al., Journal of Archaeological Science(2023)

果たして、皆さんなら大切な家族や友人の上にトゲトゲの花を供えるでしょうか?

もちろんネアンデルタール人と私たちの感性は違うでしょうから、あり得なくもないですが、研究者らは「葬儀用の花としての選択肢としては可能性が薄いでしょう」と述べています。

ただ一つの仮説として、トゲトゲの花を置くことで死体を漁るげっ歯類などから故人を守った可能性ならゼロではないといいます。

しかしチームは全体の調査結果を踏まえた上で、遺跡で見つかった花粉はやはり土を掘るハチによって運ばれた可能性が最も高いと結論しました。

ネアンデルタール人に花葬文化はなかったかもしれませんが、それでも埋葬をしていたことは確かであり、シャニダール洞窟が彼らの文化や習慣を理解する上で重要な場所であることに変わりはありません。

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