細菌はカビ菌糸の「高速道路」を移動して「通行料」も払っていた

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日本の研究者によりカビ菌の菌糸の上を細菌が高速道路として利用し通行料金も支払っていることが判明した
日本の研究者によりカビ菌の菌糸の上を細菌が高速道路として利用し通行料金も支払っていることが判明した/Credit:Life Science Alliance

細菌の世界にも高速道路と料金システムがあるようです。

9月22日に『Life Science Alliance』に掲載された論文によれば、細菌はカビの作る細長い菌糸上を高速移動移動できるだけでなく、降りる時には通行料としてビタミンB1を支払っていることが明らかになりました。

しかし、やろうと思えば細菌はタダ乗りできるにもかかわらず、どうしてカビに対して通行料を支払っていたのでしょうか?

共生関係を解き明かす

1gの土の中には日本人口に匹敵する菌類の世界が高速道路付きで広がっている
1gの土の中には日本人口に匹敵する菌類の世界が高速道路付きで広がっている/Credit:depositphotos

森林の土のわずか1グラムの中に1億個以上の単細胞型の細菌が存在するだけでなく、多細胞型のカビ菌の張り巡らせた菌糸の総距離が、数百メートルにも及ぶと言われています。

近年になって、この多細胞型のカビ菌が張り巡らせた膨大な菌糸が、単細胞型の細菌の移動と増殖に重要であることがわかってきました。

しかし両者の共生関係は十分に解明されておらず、具体的に何が起きているのかは詳しくわかっていません。

そこで今回、筑波大学の研究者たちは、単細胞型の細菌と多細胞型のカビ菌の関係を解き明かすため、両者を一緒の培地で育てることにしました。

すると、非常に興味深い現象が起きていることに気付いたのです。

高速道路は利用されると成長が加速していた

左端から右端にカビ菌の作った菌糸が伸びており光る細菌がその上を高速移動している様子
左端から右端にカビ菌の作った菌糸が伸びており光る細菌がその上を高速移動している様子/Credit:Life Science Alliance

単細胞型の細菌と多細胞型のカビ菌を一緒に育てた結果、上の動画のように、単細胞型の細菌が多細胞型のカビ菌が張り巡らせた菌糸の上を、秒速30マイクロメートルという非常に速い速度で移動していることが判明しました。

多細胞型のカビ菌は、ある地点のエサ場と他のエサ場を菌糸でつなぐように増殖するため、菌糸の上を移動することは、単細胞型の細菌にとって効率的なエサの確保に有利に働きます。

そのため最初、両者の関係は、単細胞の細菌側に利益が偏った、歪んだ共生関係にあると思われました。

しかし単細胞型の細菌の行動を詳しく分析を行った結果、意外な事実が判明します。

単細胞型の細菌が菌糸を高速道路として利用しはじめると、なぜか利用されているだけだったはずの、多細胞型カビ菌の菌糸の成長が加速したのです。

菌糸の上を緑に光る細菌が覆っている様子がわかる。菌糸の成長は細菌の利用によって促進されていた
菌糸の上を緑に光る細菌が覆っている様子がわかる。菌糸の成長は細菌の利用によって促進されていた/Credit:Life Science Alliance

どうやら単細胞型の細菌は、単にタダ乗りをしているだけではなかったようです。

しかしそうであるなら、単細胞型の細菌はいったい何を「お返し」していたのでしょうか?

通行料金はビタミンB1

高速道路のお代はビタミンB1(チアミン)で結構
高速道路のお代はビタミンB1(チアミン)で結構/Credit:筑波大学

単細胞型の細菌の動きを分析した結果、「通行料金」の正体が判明しました。

単細胞型の細菌は菌糸の高速道路を降りる直前に、栄養素として有名なビタミンB1(チアミン)を分泌し、分泌されたビタミンB1はカビの菌糸内部に取り込まれていることがわかりました。

ビタミンB1はカビ菌にとっては貴重な成長因子であり、受け取ることによって、さらなる菌糸の成長が可能になり、新たな生活空間とエサの探求に乗り出すことが可能になります。

また菌糸が伸びることは高速道路が延長されることを意味するため、利用する細菌にとっても大きな利点になります。

両者は偏った片利共生ではなく、対等な共生関係にあったのです。

少しずつもらい、少しずつ与える。さもなければ…修羅の道

単細胞の細菌と多細胞のカビ菌の共生関係
単細胞の細菌と多細胞のカビ菌の共生関係/Credit:筑波大学

今回の研究により、菌類の世界での新たなギブ・アンド・テイクが明らかになりました。

限られた空間に存在するエサを効率よく摂取するために、高い運動能力を持った単細胞型細菌と、運動能力は低いものの地域全体のエサとエサを結びつける多細胞型のカビ菌の両社は、互いの能力を生かして、誰に教えられるでもなく、共に生き残る道を選んでいたのです。

中央のアオカビが分泌するペニシリンのせいで周囲の細菌が駆逐されている
中央のアオカビが分泌するペニシリンのせいで周囲の細菌が駆逐されている/Credit:Tom Volk’s Fungus

ただこのような共生関係は常にみられるわけではありません。

ペニシリンの元祖であるアオカビは、栄養素を独占するために他のすべての細菌を殺す抗生物質を分泌することが知られています。

他の記事にもあるように、人間はこのアオカビのいわば「皆殺し能力」を薬に転用し、人間の体内を無菌状態に近づけることで感染症を防いできました。

しかし人間の世界も菌類の世界も、片利や独占がいつまでも続くはずもありません。

アオカビの系譜を引き継いだ人類は一時の利益の対価として、常に進化を続けるスーパーバグとの兵器開発戦争に突入しているのです。

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