考える労力を減らすため、わざと「ルールを無視」していた⁈
研究者によると、このような動物実験で、動物たちが自らの行動を変えるにはある程度の学習時間が必要だといいます。
ところが馬たちは学習時間を要することなく、急激に自分たちの行動を変えていました。
これを受けて研究者らは「馬はそもそもゲームのルールをすべて理解していて、報酬を得るのに労力の少ない行動を戦略的に選んでいる可能性がある」と大胆な指摘をしています。
つまり、馬たちは「ランプ=停止の合図」も初めから分かっていたというのです。
例えば、ランプがついているときには報酬がもらえず、ランプが消えているときに報酬がもらえる場合。
馬たちがこのルールに従って、正しく報酬を得ようとするなら、まず「ランプが点灯している」ことを確認し、次に「この場合にカードに触れるとおやつはもらえない」ことを理解して、最後に「じゃあ触るのはやめておこう」と判断する一連の思考プロセスが必要です。
これを一々やっていては、かなりの認知的な労力がかかってしまいます。
それならば、ランプ点灯時に報酬がもらえずとも、モグラ叩きのようにカードに触れ続けることで、定期的に(ランプ消灯時の)報酬をゲットできる方が労力が少なくて済むわけです。
いわば、”数打ちゃ当たる作戦”と言えるかもしれません。
みなさんも数打ちゃ当たる作戦を実行するときは、あまり余計な思考を挟みませんよね。
ところがペナルティが導入されるとなると話は別です。
先ほどまではランプ点灯時にカードに触れても罰はなく、すぐにゲームに復帰できるので、正しく判断することの損失が小さくて済みました。
しかし今度は判断ミスをすると10秒間もゲームに参加できなくなるので、正しく判断しないことの損失の方が大きくなり、全体的に得られる報酬も少なくなります。
これらを全部理解した上で、馬たちは戦略的に立ち振る舞っていたというのです。
これについて研究者は「馬たちは先の出来事を予測して、利益を最大化させるために自らの行動を調節できるのかもしれない」と指摘しました。
この結果は馬たちが以前考えられていたよりも高度な認知能力を持っている証拠となります。
研究主任のルイーズ・エヴァンス(Louise Evans)氏は「馬は生まれつきの天才ではなく、至って平凡な知能の持ち主だと思われがちですが、実際は高い認知能力を持っているのでしょう」と話しました。
また研究者らはこの一連の結果が馬の福祉の向上に役立てられると期待しています。
エヴァンス氏は「馬から本当に良いパフォーマンスを引き出すためには、飼育や訓練において従来の嫌悪的な方法や厳しい調教は必要ないのかもしれません」と述べています。