チベット高原の氷河から968種の「未知の微生物」を発見
チベット高原の氷河から968種の「未知の微生物」を発見 / Credit: canva
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チベット高原の氷河から約960種の「未知の微生物」を発見! (2/2)

2022.07.14 Thursday

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人類に対する潜在的な危険性はあるのか?

研究チームは今回、チベット河ゲノムカタログ(TG2G)の中から、約2万7000個の病原性因子を特定したと報告しています。

病原性因子とは、細が潜在的な宿主の体内に侵入して、コロニー化するのを助ける分子のことです。

さらに「これらの病原性因子のうち、約47%は過去に確認されたことのない分子であり、どれほど危険性があるのか知るすべはない」と述べています。

加えて「これらの細菌が、氷河から解き放たれたのち、長く生き延びなかったとしても、危険は残されている」と指摘します。

というのも、細菌は「可動遺伝因子(MGEs)」という、自身のDNAの一部を他の細菌と交換できるユニークな能力を持っています。

そのため、氷河中の細菌が、解凍後にまもなく死滅したとしても、遭遇した他の細菌に病原性因子を伝えることで、それが動植物に伝播する可能性は十分あり得るのです。

このことから「氷河中の微生物と現代の微生物との遺伝的な相互作用は、特に危険をはらんでいる」と研究者は警告しています。

パンデミックの危険性は十分にある
パンデミックの危険性は十分にある / Credit: canva

チベット高原は現在、世界平均の3倍のスピードで温暖化が進んでおり、すでに氷河の8割が縮小し始めています。

懸念すべきは、チベット高原が近隣都市への重要な水源となっている点です。

とくに、中国の長江と黄河、インドのガンジス川など、世界でも有数の人口密度の高さを誇る地域につながっているため、将来的なパンデミックの発生が非常に危惧されています。

また、これはアジアだけに留まる問題ではありません。

地球上には、陸地面積のほぼ10分の1を占める氷河があり、衛星画像を分析した2021年の研究によると、その大部分の氷河が加速度的に溶解し、世界各地で古代の微生物が解き放たれつつあるという。

1941年8月から2004年8月までのアラスカ南東部のミュアー氷河の後退
1941年8月から2004年8月までのアラスカ南東部のミュアー氷河の後退 / Credit:NOAA Climate.gov

実例としては、2016年のシベリア西部で、大規模な炭疽病が発生し、1500頭以上のトナカイが大量死する事件がありました。

これは、記録的な猛暑により、永久凍土に70年以上前に閉じ込められたトナカイの死骸から炭疽菌が蘇って広まったことが原因と判明しています。

まとめ

イタリアの作家であるパオロ・ジョルダーノ氏は、2020年の著書『コロナの時代の僕ら』の中で、興味深い指摘をしています。

それは、人類が森林伐採のような環境破壊を押し進めたことで、そこを住処としていた病原体が居場所を失い、引越しを始めた、ということです。

病原体はもともと自然の中でのんびり暮らしていたが、人為的な生息地の減少にともない、引越しを余儀なくされたとジョルダーノ氏は語ります。

その中で、広い範囲を移動してくれる人間や動物は、引越しに最適な乗り物です。

すると、コロナのような世界的なパンデミックが発生します。

これを踏まえると、温暖化による氷河の急速な溶解と微生物の解放についても、同じようなことが言えるのではないでしょうか。

深刻化する気候変動の一部は、人間が都市化と工業化を過剰に進めた結果でもあります。

私たちが自然との関わり方を変えないかぎり、コロナに次ぐ第2、第3のパンデミックがやってくるかもしれません。

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